CHAIN:1


生きる兵器という言葉に耳に入った。直接言われたものではない。だが私を指す言葉だとわかる。
足を止めると会話をしていた兵が何事か話しているようだった。止めた足を前に踏み出す。
奥まった場所にある他の部屋とは扉の大きさも違い、兵が二人常に守りのために立つ部屋に向かった。
兵は私の姿を確認すると部屋に向かって声をかけ確認をする。返答があり扉が開かれた。

「おかえり、小夜」

部屋に入り扉が閉まると部屋の主が声を掛けてくる。もはや通過儀礼のようなもの。返す言葉などない。

「無事帰還できて良かった」

戦地から帰還する度に呼び出され同じ言葉を言われる。無事なのは私だけ。残存した兵もいたが死亡した兵の方が多く、生存した者も負傷しなかったものはいない。

「ここでは日本語で話していいよ」

検討違いの言葉に憤るがわかってあえて言っている事もわかっており抑える。目の前の男は上官だ。古きものと戦う事しか覚えておらず元から軍に所属していたと告げられ、戦地に赴くにはこの男に従うしかない。

「日本語でなくても小夜は話さないね。だからみんな小夜はこの国の言葉がわからないと思ってる」

先程ここに向かうまでに耳に入った会話が過る。生きる兵器であり人ではないと彼らは語る。私自身自分が何なのかわからない。だから足を止めたとしても何も言えはしなかった。

「……何故私一人で行かせない」

何度となく口にした事。男は苦笑し立ち上がると私に近寄り、覗くように顔を近づかせる。

「それがこの世界だからだよ、小夜。君がここにいるかぎり守らなきゃいけない最低限がある」
「私に出ていけと言っているのか」
「そうじゃないよ。小夜一人だと古きものの発見が遅れる。だから君はここにいる。戦いたいならここにいるしかない」

男の言葉に違和感を覚えた。私は確かに戦うためにいて軍人にかわりない。だが戦いたいのかと問われれば違う。男には言わずに視線を逸らした。
口にしてもどうにもならない。私はここにいるしかないのだから。

「少し休むといいよ、小夜」

頬に触れる指先を払うことはせず目を閉じた。



H25.8.28