アリスと白兎
-小夜Side-
目を覚ますと緑の葉が生い茂る木々に囲まれていた。
「ここはどこでしょう?」
首を傾げ立ち上がると場所がわかりそうなものがないか歩き出す。
「……何も覚えていません」
頭がはっきりとしてきて自分が何も覚えていないことに気がつき立ち止まる。
この場所どころか名すら思い出せない。
「アリスちゃ〜ん」
「どこからか声がします」
「木の上だよ、アリスちゃ〜ん」
周囲を見回していると教えられ見上げると人の首が二つ浮かんでいた。
「驚かないね〜」
「ね〜」
二つの首は女性のようで更に頭に紫の猫の耳が生えていた。
「アリスちゃんは白兎を追ってきたんでしょ?」
「白兎ですか?」
「アリスちゃんなんだから白兎を追うよね」
「私はアリスではありません」
“アリス”というのは名のようだった。でも私の名ではない。思い出せないのに違うと確信が持てた。
「でも水色のエプロンドレスとかアリスの定番じゃん?」
「だよねー、ウケはいいけど私はないな〜」
二つの首は見合わせて笑う。
次第に胴体も現れ木の枝に座っているのがわかる。
「まあアリスでもアリスでなくても関係ないし?」
「七原文人を追わせるのが私達の役割だから」
「「“アリスちゃん”は“白兎”を追わないと駄目なんだよ」」
「ふみ、と……」
女性が言った名前に引っ掛かりを覚え無意識に口にする。
「駄目だよ、ちゃんと僕を追わないと」
「げ、ラスボス……じゃなかった白兎」
「私達ちゃんとやってましたよ!」
後ろから声がすると女性が慌て出す。
「君達は行っていいよ」
「「はーい」」
女性が消えたのが視界に入りながらゆっくりと振り返ると男性がいた。
頭には白く長い耳がついている。
確かに知っている。
「文人……」
「やっぱり名前を変えちゃうと駄目か。ちゃんと古きものも用意してたんだけど無駄になっちゃったかな」
「何のために……」
「色んな設定で試してみようかと思ったんだ。さっきの二人は無事だといいね」
見なくてもわかりきったかのように文人は笑みを浮かべる。
周囲に何か武器になりそうなものがないか探す。
「はい、小夜」
「……なぜ渡す」
気づけば文人の手には刀があった。
答えるわけがないとわかり急いで刀を手にし森の中へと駆け出した。
-文人Side-
小夜が森の中へと入り少し経った。
そろそろ終わった頃かと小夜の元へと歩き出した。
「……文人」
赤く染まったワンダーランド。設定は不思議の国のアリスをモチーフにしても然程凝ったことはしていないから外観はただの森だ。
血溜まりに小夜と小夜に倒された古きものがいた。
双子の少女は大方逃げたのだろう。
「何?小夜」
小夜の服装はアリスによく用いられる水色のエプロンドレス。動きやすいように丈は短めにしていた。
華やかな服も血に染まり破れていたがそれでも小夜には似合っていた。
「なぜこんなことをする」
「次に行こうか、小夜」
小夜に歩み寄ると小夜は刀の切っ先をこちらに向ける。
「文人っ」
小夜の瞳が赤く染まる。僕の名を呼び、僕だけを見て瞳を赤く染めさせる。
その光景はとても綺麗で一瞬だったのが惜しく感じた。
「なっ……」
小夜は膝から崩れ落ち刀も地面に落ちる。
「すぐ小夜の記憶は戻ると思っていたから前もって薬を投与してたんだよ。大丈夫、眠るだけだよ」
「また……次目覚めた時は記憶を消すのか」
「……またあとでね、小夜」
倒れ込みそうになる小夜の前に膝をつき受け止める。
「追ってきてほしかったんだけどその前に戻っちゃったのが残念だったかな」
自分の頭につけた長い耳に触れて笑う。
「でもやっぱり名前はそのままがいいね、小夜」
眠りについた小夜の顔を眺め、やがて立ち上がり小夜を抱き上げ歩き出した。
H25.2.10