護衛と護衛対象


「小夜、この部屋だ」
「はい」

どこかの建物の通路を男性について歩いていくとある部屋の前で止まった。
男性が扉を軽く叩く。

「文人様、小夜を連れてきました」
「入っていいよ」

中から返事がし男性が扉を開け、先に私が入るよう促される。

「おはよう、小夜ちゃん」
「おはようございます」

机に肘をつきながら男性が私に挨拶をする。戸惑いながらも返すと男性は微笑んだ。

「唯芳、下がっていいよ」

後ろにいる私をここまで連れてきてくれた男性に向かって言うと、男性は頭を下げ部屋を出ていった。

「状況は聞いているよ。記憶が混乱してるんだって?」
「はい……すみません」

目覚めると見慣れぬ部屋にいた。
すぐに先程の男性が部屋を訪れ、わかりかぎりの自分の状況を説明した。

「謝らなくていいよ。僕の事はわかる?」
「文人、さんですよね?私が護衛するかたです」

男性に説明しながら整理していき、自分の名前、私は護衛する役目にあることと文人さんを護衛するということは思い出せた。
でも始めに文人さんを目の前にした時に微かに違和感を感じ、合っているのか不安になる。

「よかった、それで十分だよ。君を連れてきたのは唯芳、まだ新米の小夜ちゃんを指導する人。ここにいるのが九頭、僕の秘書で護衛も兼ねてる。つまり小夜ちゃんの同僚だね」

文人さんを間違えていなかった事に安心し、文人さんの脇にずっと佇んでいる男性に視線を向ける。

「九頭だ」
「小夜です、よろしくお願いしますっ」

鋭い視線と共に名乗られ慌てて頭を下げる。
こうして文人さんの護衛を務める事になった。


数日。文人さんについた。今日は会談というものがあり終わるまで扉の前にいた。

「何をそんなに気にしている」

同じように隣で待つ九頭さんに指摘され我に返った。
ちらりと見るとやはり鋭い視線が向けられていて、逸らすように俯いた。

「……服装に違和感があるような気がして」
「違和感?」

黒いジャケットに黒いズボン。これが護衛をするための服装だと認識しているはずなのに違和感を感じる。

「身体に合わないのか」
「合わない、んでしょうか?大きさは合っているのですが」
「ならば問題ないだろう」

確かに戦う上では問題のない服装。でももっと身軽に感じるものがあったような気がした。


「小夜」

通路で呼び止められ振り返るとあの日私を文人さんの元に連れて行ってくれた男性がいた。

「唯芳さん」

文人さんは私を指導する人と言っていたけれどあの日以来会えなかった。

「何か不都合はないか?」
「はい、大丈夫です」
「そうか……」

唯芳さんの顔が微かに緩む。彼と話しているとどこか安心できた。

「あ、不都合はないのですが」
「何かあったのか?」
「服装に違和感があって……」
「ずっとそれを着用してきたはずだが」
「ずっと……」

俯かせ考える。
すると頭に軽い重みを感じ顔を上げると唯芳さんの手が載せられているとわかった。

「もし他の服装にしたければ文人様に言うといい」
「唯芳」

声が聞こえ手が離れた。名残惜しく感じながらも声の主に顔を向ける。

「申し訳ありません、文人様」

唯芳さんは声の主、文人さんに謝罪する。何かいけないことをしてしまったのだろうか?私も謝った方がいいのではないかと普段の笑みを浮かべていない文人さんを見つめながら考える。

「いいよ。下がって」
「失礼します」

それだけ告げ唯芳さんは背を向け行ってしまった。

「小夜ちゃん」
「はい」

見送るように唯芳さんの背に向けていた顔を文人さんに向けると頬に指が触れた。

「君は僕のそばにいるのが務めだよ」
「は、い……」

そっと撫でられ頷く。その瞬間頭が痛んだ。

「っ……」
「……やっぱりもっと設定しないと駄目かな。思ってたよりは保ったけれどね」

もう片方の手も伸びて両手で顔を包まれる。
痛む頭に顔をしかめながらも文人さんを見つめた。
上向かせられ近づく顔に身体が熱くなる。

「ふみ、とっ」

文人の手を掴み名を口にする。
文人は楽しそうに笑んだ。

「数日僕についてくれて嬉しかったよ」
「……お前を守る私を見て滑稽に思ったか」

掴む手に力が入ると文人の視線が横に逸らされ、瞬間腕に鋭い痛みを感じた。
痛みは些細なものでもすぐに身体から力が抜け意識が落ちていくのがわかる。

「幾度……繰り返せば、気がすむ」

顔は掴まれたままで床に膝をつく事もなく、立っていられなくなり顔から手が離され文人の腕の中に倒れ込んだ。

「小夜、君がそばにいるだけでこんなに……」

文人の声がぼんやりと聞こえるが内容までは聞き取れない。
目を閉じると先程半面に触れられた頭を撫でられた気がした。



H25.2.11