メイドと主人


「おはよう、小夜ちゃん」
「おはようございます!文人さん」

屋敷の廊下で小夜の後ろ姿が見え声をかけた。

「文人さん?」

小夜の姿を下から上へと見遣る。
服は用意したからどんなものかは知っていても実際着用している姿を見るのとでは違う。

「似合うね」

今の小夜は僕に仕えるメイドという設定だった。
着用してるのもメイドのものでスカート丈は動きやすいように短くしてある。小夜ができるだけ違和感を持たないように。

「そうでしょうか……?」
「うん、可愛いよ」

照れるように俯く小夜に見たまま伝えると微笑んだ。
同じ身体、同じ顔なのに設定を変えれば色んな表情を見せる。そんな小夜を可愛いと感じた。

「少しじっとしてて、髪飾りがずれてるから」
「あ、はい」

小夜の頭につけられているヘッドドレスに手を伸ばした。本当はずれているなんてことはない。
ただ近づいただけだった。

「小夜〜?」
「真奈さんの声です。真奈さん、私はここです」
「小夜!よかった」

角から小夜と同じようにメイド服を着用している少女が現れ、小夜に駆け寄る。
頭から手を離し一歩後ろに下がった。

「あ、文人様。おはようございます」
「おはよう」

小夜と話していたのが主人だとわかり少女が頭を下げる。

「小夜ちゃんを探していたみたいだけど何かあったのかな?」

問うと少女は顔を上げて戸惑いながら小夜に視線を向ける。間があり再びこちらを向いた。

「紅茶の淹れ方を矢薙さんが教えようとしていたらいなくなってしまって……」
「そうでした……!」
「忘れていたのね、小夜さん」
「矢薙さん、小夜見つかりました」

少女と同じように角から女性が現れた。
小夜が振り返り勢いよく頭を下げる。

「すみません!」
「用意をしていたらいなくなっていて驚いたわ。何かあったのかと……」
「心配までおかけしてすみません」

頭を上げて再度謝罪をする。顔は見えないけれど後ろから見ても眉を下げているのが想像できる。

「今度は私も一緒に教わるから行こう、小夜」
「ありがとうございます、真奈さん」

少女が小夜の手を取ると小夜が笑った。

「今日でないと駄目かな?」
「え?」

女性に対して訊き小夜の両肩に手を載せる。

「少し小夜ちゃんと話したいんだ」
「ですが文人様一介のメイドとそんな……」
「いいんだよ」
「わかりました。差し出がましく申し上げてしまいすみません」
「いいよ。彼女はメイドで僕は主人なんだから言われても仕方ない。行こうか、小夜ちゃん」
「は、はい」

勝手に話が進んだため小夜は戸惑い僕と少女を交互に見ると繋がれていた手が離れた。
それを確認し肩を抱いて私室へ向かった。


「文人さん、お話って何でしょうか?」

私室へ入り机の前まで来ると小夜から離れ机に寄りかかった。
不思議そうに僕を見つめる小夜の頬に手を伸ばし、指先でそっと触れる。

「……様、と呼んだ方がいいのでしょうか?」

僕が何も答えずにいると続けて問いが呟かれた。

「小夜ちゃんはいいんだ」
「他の皆さんは“文人様”と呼ばれてるのにですか?」
「うん」
「どうしてでしょう?」

微かに首が傾げられ、両手で小夜の手を取り軽く引いた。
一歩前に近づき、足の間に小夜が佇むのを見つめた。

「小夜ちゃんは“特別”だから」
「とく、べつ……」

小夜が意味を探るように呟いて、僕は微笑んだ。


「あの者に給事ができるとは思えません」
「僕は別に小夜に給事をしてほしいわけじゃないんだけどね」
「ではこの設定はなしにした方がよろしいかと」

九頭の言葉に設定案の書かれた紙を掲げて見る。

「わかったよ、じゃあ別案の準備を頼むよ」
「はい」

九頭が下がったのがわかり紙を机に置く。

「どんな設定でも変わらないものはあるね、小夜」

ここにはおらずまだ小夜は眠っていた。そんな小夜に囁くように呟いた。



H25.2.13