魔法少女と長官
「小夜、まだ増えてる」
「は、いっ……」
耳につけている機器から比呂さんの声が聞こえ、ついていた片膝を上げる。
商店街には今は私達と数体の古きものしかいない。建物は崩れ見る影もない。
前線には私だけで向かい、仲間の皆さんは後ろでサポートしてくれている。
「大丈夫!?更衣さん!」
「委員長……駄目です、ここまで来ては」
「君を後ろに引かせるくらいはできるよ」
駆けて私の横まで来たのは鞆総委員長だった。
「肩を貸すから」
「ですが今引いても古きものは増えるばかりです」
差し出された手を見つめ、顔を上げ告げると委員長は困ったような表情をしながらも笑みを浮かべた。
「君ならそういうと思ったよ。月山さん準備はできてる?」
「できてる。時間稼ぎにしかならないけど」
「それでいいよ。更衣さん、走れる?」
二人の会話が聞こえ察する。隙を作ってくれるのだろう。
真正面からは無理でも隙があれば分裂する本体を見つけて倒せるかもしれない。
「君につけてる飛行動力も切れてるから走ってもらうことになるけど」
「はい、大丈」
言い終わる前に目の前に勢いよく車が止まる。
「更衣さん乗って!」
「よく車なんて出せたね」
私と委員長が驚いていると扉が開けられ藤村さんが言った。
「長官が許可を出してくれたんだ」
「小夜ちゃん」
「は、はい!」
機器から七原長官の声が聞こえ返事をする。
「君は魔法少女だけど残念なことに力が尽きてしまった。だから作戦を変更するよ」
「変更ですか?」
「君のやりやすいようにやるといい。今日は優花くんも不在で大変だしね」
「わかりました!」
「更衣さん?」
委員長の声を合図にしたように車の上へと跳んだ。
「な、何だ?」
運転席の窓は開いていて松尾さんが私を見上げてきた。
「このまま行って下さい!」
「はぁ!?」
「松尾くん、行ってあげて」
「って言ってもよ」
「早くしないと準備したのに無駄になる」
「ほら、松尾さん!月ちゃんも言ってますよ!」
「仕方ねぇな!二人とも振り落とされるなよ!」
発車するのがわかり屈む。
「気をつけて」
「はい、委員長も」
そう告げると車は勢いよく発進した。
「お疲れ様、小夜ちゃん」
「……すみません」
古きものを倒し長官のいるカフェへと戻る。他の皆さんは事後処理のため別れた。
「謝ることなんてないよ。君はちゃんと古きものを倒したんだから」
「はい……」
私にもっと力があれば迅速に退けられた。不甲斐なさに俯く。
「服もこんなに破れて髪もほどけてる」
「服も毎回駄目にしてしまってすみません」
「小夜ちゃんのためのものだから気にしないで」
七原長官はいつも優しい。顔を上げると手がほどけている方の髪に伸びた。
「やっぱり戦いにくい?」
「少し……」
武器は刀でも魔法少女としての力を使いこなせない。
できるだけ自分の使命に抗わないようにしたいのに、同じ魔法少女の優花さんがいなければ私は魔法少女として満足に戦えない。
それを見かねて長官が私の戦いやすい戦い方でいいという指示を出してくれたのかと思うとやはり不甲斐なく思う。
「君はそれでいいんだよ」
「え?」
髪に触れていた手が刀を握りしめている腕に触れて下に這わせられる。やがて刀を握る拳に辿り着く。
「ね、小夜」
触れた手の温もりはわからず、ただ私の名を口にして笑む七原長官を見つめた。
「魔法少女、というのも考えたんだけどね」
「……いい加減にしろ」
暗がりの実験室で文人が目の前の机に腰掛け話すのを聞いていた。
「可愛いと思うんだけどな」
文人の指先が頬に触れ、睨んだ。
それを楽しむように笑い、構わずに頬を撫でられる。
「でも現実的にはなかなか難しいよね」
「わかっていてなぜ考える」
「何でだろうね」
文人はわかっていながら告げない。もはや慣れたやりとりだが苛立つ。
「私はお前の玩具ではない」
「玩具だなんて思ってないよ。玩具はいつか飽きるからね」
真意はわからない。答えもしないだろう。
文人の言葉に私はそれ以上何も言わなかった。
H25.2.14