うさぎと飼い主


神社に隣接されている家屋に入り、ある部屋に真っ直ぐ向かって行く。

「……文人さん?」

襖の前に立つと中から声がした。
その声に答えるように襖を開けると長い耳を頭につけた小夜が笑顔で出迎えてくれた。

「よくわかったね」
「どうしてでしょう?やはりこの長い耳があるからでしょうか……」

中へ入り後ろ手で襖を閉め踏み入れる。
小夜が端から座布団を持ってきてくれて座った。
小夜は座布団は敷かずに畳に正座をする。顔を俯かせる小夜の頭を見遣ると白いうさぎの耳があった。
勿論作り物で小夜には生えているという設定をしている。

「小夜ちゃん、ご飯にしようか」
「……はい」

小夜は顔を上げて控えめに笑みを浮かべる。
持ってきた鞄からお弁当を出す。小夜は開けていく様を見つめていた。

「綺麗な色ですっ」

鮮やかなお弁当の中身を見て嬉しそうな声で言われる。
小夜の力にならないとわかっていてもこうして喜んでくれると作りたくなった。

「今日はおにぎりじゃなくてパンにしてみたんだ」
「パン、ですか?」

もうひとつ箱を取り出して開ける。
その中から一つパンを取り、一口サイズに千切った。

「はい、小夜ちゃん」
「え?」

小夜の口元に差し出すと僕と差し出されたパンを交互に見て、意図を理解したかのように口を開いた。
指先が唇に一瞬触れて離れる。

「美味しいです!」
「良かった」

箸を手にし食べ物を取り小夜に差し出すと同じように口を開き食べていった。


やがて空になりお弁当箱を鞄にしまっていく。

「……文人さん、もう帰られるんですよね?」

開く時と同じようにしまう様子を見つめていた小夜が呟くように訊いてくる。
ファスナーを閉め、脇に置いて座り直した。

「今日はまだいるよ」
「本当ですか!?」
「うん。来ても早く帰ったから寂しかったよね」
「はい……文人さんにはお忙しい中来ていただいてるのにすみません」

小夜はこの部屋から決して出てはいけないと思っている。僕以外と会ってはいけないと。
長時間接すれば小夜の記憶が戻ってしまうためこの設定で開始してから数日はすぐに退室していた。

「謝る必要はないよ、小夜ちゃん」

そう言ってもどこか申し訳なさそうに眉を下げる小夜に苦笑する。

「小夜ちゃん、こっちに来てもらえるかな」
「そちらにですか?」

不思議そうにしながらも小夜は立ち上がり僕の前に佇む。

「横を向いて、ここに座って?」
「はい」

言われるがままに座るよう指した足の間に小夜は座った。
小夜の服装は短いスカートにタンクトップで膝を立てた体勢だと裾が上がり太股が露になる。小夜は特に気にする素振りもない。

「文人さん?」

無言だったからか小夜が呼び掛ける。
視線をあわせ頬を撫でた。

「こうしていただくの好きです」
「良かった。一応飼い主だから嫌だと困るからね」

わざとらしく告げると小夜は制止し僕を凝視する。

「かい、ぬし……」
「うん」

もう片方の手を腰に回し衣服の裾を上げ手を滑り込ませる。
頬を撫でていた手を下げていき首筋、胸元へと辿っていく。

「七原文人は私の飼い主……私は兎……」
「そうだよ、小夜ちゃん」

腹部に這わせていた手を衣服から抜き、肩を抱く。
胸元から更に指先を下に辿らせ、膝に手を置いた。

「だからここから出られない。僕をずっと待ち続ける」

顔を頭に寄せる。
小夜は宙に視線をさ迷わせている。
人との接触がなければ多少は引き延ばせる。でもそれでは意味がなかった。
だから自ら今回の舞台の幕を引く。

「私は……」

頭につけた長い耳は動く事はない。作り物なのだから当然だ。それでも小夜には似合っていた。
小夜はどんな姿でも綺麗だ。

「ふみと、さん……」

スカートの裾を上げながら太股に手を這わせる。

「……先程の、食べ物か」
「効いてきたかな」

顔を離し小夜を見遣ると赤い瞳が僕を見ていた。

「兎の目みたいだね」
「……文人」

薬が効いてきてから記憶が戻ったようで抵抗もなく、目を閉じた。
力を失った身体を支える。

「君は決して誰にも飼えないね、小夜」

今回の設定を自身で考えておきながらそんなことを呟く。
眠る小夜を見つめながら頬を撫でた。



H25.2.17