表情


そろそろ神社の掃除が終わる頃合いだろうと階段を上っていく。
境内が見えると小夜の姿もあった。箒を手に空を仰ぐ小夜。今日もよく晴れた空だった。

「小夜ちゃん」
「文人さん?」

呼び掛けると小夜はこちらに顔を向ける。そんな小夜に持っていたトートバッグを掲げて見せた。

「一緒におやつを食べようと思って」


神社から湖畔へと移動した。斜面になっている草地に用意していたシートを広げてそこに座るよう促す。

「はい、小夜ちゃん」
「お饅頭っ!」

トートバッグから透明のパッケージを取りだし、蓋を開けて小夜に差し出した。
すると小夜は前のめりになり中にあるお饅頭に釘付けになる。

「いいんですか?」
「うん、そのために持ってきたんだから」
「ではいただきますっ」

中には白と茶のお饅頭が3つずつ入っていた。
取ろうとして指先を白と茶で迷わせる。

「どちらも食べればいいよ。先に食べる方を迷うかもしれないけど」

そう言うと迷いは軽減されたのか少し迷いながらも茶の方を取った。
小夜が取ったのを見届け間に容器を置く。
小夜は両手でお饅頭を持ち一口かじった。

「こし餡ですね!」
「うん。白がつぶ餡」

幸せそうに食べる姿は普通の女の子で、刀で古きものと戦うなんて微塵も感じられない。

「何か飲みたかったら言ってね。お茶持ってきてるから」
「お茶ですか?」

不思議そうに小夜は首を傾げる。珈琲であることが多いからかもしれない。
でも今日の水筒の中身は何の変哲もない緑茶だった。

「お饅頭に珈琲は合いませんよね。父様も和菓子を出してくださる時は緑茶をいれてくれます。あ!でも文人さんの珈琲は凄く美味しくて大好きでだから、その」

しどろもどろになりながら必死に言う小夜がおかしくて笑った。

「ありがとう。小夜ちゃんの言う通りお饅頭に珈琲は合わないかなって思って緑茶にしたんだ」

僕が笑ったことで恥ずかしく感じたのか小夜は俯きながらもそもそとお饅頭を食べた。

「はい」

水筒の蓋に緑茶を注ぎ小夜に差し出す。小夜は受け取り口をつけた。

「美味しいです。お饅頭にとても合います」
「良かった。小夜ちゃんは和菓子好きだよね」
「甘味は何でも好きですが洋菓子をあまり食べたことがなくて……」

水筒の蓋を持ったまま小夜は自身が言った事に首を傾げた。

「洋菓子は好き?」
「あ、はい。文人さんが作って下さる洋菓子は色も鮮やかで見るのも楽しいです」

考えを遮るように問いかけると小夜の様子は戻った。

「生クリームもふわふわして美味しいです」

何度か口にしたケーキを思い出したのか笑顔で語る。
すぐにこちらに顔を向けると凝視された。でも視線は微かに上にずれている。

「文人さんの髪も少しふわふわしてます」

小夜の手が髪に伸びて触れたようだった。

「小夜ちゃんと違って癖っ毛だからね。小夜ちゃんは艶やかで綺麗だ」

言いながら一つに結われた髪の毛先を取り指先で撫でる。

「そうでしょうか……でも文人さんの髪は私とは違いますがふわふわで触っていて気持ちいいです」
「そんなこと言われたのはじめてだよ」

あまりにも楽しそうに髪に触るものだから笑うと小夜は慌てて離れた。

「すみません……触りすぎてしまいました」

謝られて小夜の髪を滑り落とし離した。

「触られて嬉しいっていうとおかしいかもしれないけど、小夜ちゃんが楽しそうだったし嬉しいよ」
「そんなに顔に出てましたか!?」

驚いて言うと恥ずかしがりながら水筒の蓋で顔を隠そうとした。
その水筒の蓋を取ってしまう。中は空だった。

「はい、お饅頭」
「ありがとうございます」

再びお饅頭のいれた容器を差し出すと小夜は躊躇いがちに白を取った。
一口口にすると美味しいと口にしなくてもわかる笑顔を浮かべる。

「美味しい?」
「はい、とっても!」

表情で感情がわかりやすい小夜は可愛らしかった。記憶を上書きする前の小夜は表情に乏しくはあったがやはりわかりやすかった。変わらないのだろう。

「文人さんは食べないんですか?」
「僕は……」

いいよと言いかけて小夜の眉尻が下がっているのに気づく。
間に置かれる容器から白を手に取る。

「小夜ちゃんが美味しそうに食べるから僕も食べようかな」
「はい!」

嬉しそうに笑う小夜を見遣り、前に広がる湖を眺めた。



H24.8.26