散歩


浮島内を小夜と歩いていた。
今日は休日だけれど小夜は制服を纏ったまま僕の一歩後ろからついてくる。

「唯芳さんの事が気になる?」
「はい……やはり手伝いをした方がいいのではないかと」

俯き加減で答える。今頃一人で大変だろうと考えているのだろう。
実際は小夜が不在の時に神社の仕事をする必要があるかといわれると必要はない。でも唯芳は真面目だから小夜がいない今も神主の役をしているだろう。

「唯芳さん真面目だからね」
「そうなんです。そこが父様のいいところなのですが私も何か役に立てないかと思って……文人さん?」

立ち止まって小夜の前に立ちはだかるように佇むと小夜は顔を上げた。
人差し指で額を軽く突いた。

「小夜ちゃんも真面目な唯芳さんの娘で似てるんだから息抜きはしないと。ね?」

休日だから息抜きに散歩でもと唯芳に言わせ、たまたま遭遇したのを装い小夜と歩いていた。

「そうでしょうか?」
「うん。普段も学校から急いで帰って手伝ってるんだから」

そう設定をしなくも小夜は自ら率先して神主の娘の仕事をした。それが当然かのように。

「僕に付き合っての散歩は嫌かな?」
「そんなことはありません!文人さんとお散歩できて楽しいです!」
「じゃあ、今は仕事の事は忘れようか。お互いに」
「……はい」

まだ躊躇いはあるものの小夜の顔には笑みが浮かんだ。


再び歩き出すとすぐに公園が見える。
公園に入ると小夜は遊具を見回し始めた。

「何か気になるものがあった?」
「気になる、というかこちらにあるものはどう使用するのでしょう?子供の遊び場だということはわかるのですが」
「久しぶりだから忘れちゃったのかな」

ブランコへと近づき小夜を招くと小走りでついてくる。
ブランコの後ろに回り、椅子の部分を指す。

「ここに座って」
「こちらにですか?」
「そう、それで両脇にある鎖に掴まって両足を浮かせて」

言われたとおりに座った小夜の背を押すと軽く前後に揺れる。
段々反動がついてきて振り幅が大きくなり離れる。教えなくても小夜は自分で漕いでいた。

「こういう遊び方をするんですね!」
「そうだよ」

思いの外振り幅は大きくなってきたけれど小夜は気にすることなく先を見つめ漕いでいく。
しばらくして手を離し身体が宙に舞った。前方にいた僕を追い越し着地する。

「凄いね、小夜ちゃん」
「気持ちよかったです!ありがとうございます、文人さん!」

満面の笑顔で振り返りお礼を言われる。
どういたしましてと返し公園を出た。


「そろそろ戻ろうか」
「はい」

湖の方まで来て引き返そうとする。
これより先に行けば地区の境が見えてくる。

「小夜ちゃん?」

進行方向を逆にし歩き出そうとすると小夜が後ろを振り返り進む素振りがなかった。

「ここから先に行くと町から出るんですよね」
「そうだね。町の外に行きたいの?」

問いかけこちらに向いた顔は困惑しているような表情だった。

「……行きたく、ないのかもしれません」

呟かれた言葉も迷っているかのようで顔を俯かせてしまう。

「小夜ちゃんが行きたくないのならいいんだよ。ここは小夜ちゃんのための場所なんだから」

歩み寄り頬に触れて囁いた。
ゆっくりと上げられた顔は真っ直ぐ僕を見つめる。

「私の、場所……」
「うん、今日歩いてみてどうだった?」
「楽しかったです。……大切な場所ですから」

控えめがちに浮かべられた笑みに手を離した。

「じゃあ帰ろうか」

小夜に手を差し出すとその手を小夜は見つめて首を傾げた。

「僕と手を繋ぐのは嫌かな?」
「い、いいえ!嫌なんかじゃありません!」

意図に気づいて慌てて首を横に振ると僕の手を握った。
握り返し歩き出す。

「手を繋いでお散歩するのも楽しいですね」
「そうだね」

笑う小夜に返す。
来た道を同じように帰るだけなのにどこか違った気がした。



H25.2.26