特別


「小夜ちゃん、大丈夫?」

カフェギモーブを出ていこうとしていた小夜を呼び止めた。
振り返った瞬間、小夜は崩れ落ち床に倒れる。
大丈夫と聞いたのは倒れた際に痛みはないかだ。

「ふみ、とさ……」

小夜に近づくと虚ろな目で見上げてくる小夜と目が合う。
屈み、身体を抱き上げた。

「ちからが……」
「大丈夫だよ。いつもより濃い珈琲と小夜ちゃんの身体を少しの間動きにくくしただけだから」

立ち上がり安心させるかのように言うと小夜は何も言わなかった。口も動かせなくなってきたのかもしれない。

「小夜ちゃんは軽いね。古きものと戦ってるとは思えないほど軽い。まるで普通の女の子だ」

カウンターの椅子を身体でずらし空いた隙間からカウンターに小夜の身体を横たえた。
右手を取り綺麗な肌を見つめる。あれだけ傷ついても一つも残っていない。
下ろして二の腕から手を這わせる。小夜の身体が僅かに反応した。

「感触がわかる程度には意識もあるのかな?」

指で首筋を辿り胸元までくるとネクタイを緩め外す。ボタンも外すと下着が露になる。襟元の鎖だけは外さずに、全てのボタンを外し白い肌がよく見えるようにした。

「痕のない綺麗な肌だね、小夜ちゃん」

長い時を生きてきた小夜が今まで無防備に肌をさらけ出す時はあったんだろうか。自ら望んで見せる時も。
彼女の中の人を殺せないという暗示のようなものがあるとわかった時と同じ感覚だった。
人を殺せないという暗示を利用して約束をし今の箱庭がある。
では今彼女に触れたいのはどうしてなのか。それをして何か利用できることがあるのか。
わからないまま、きっとわかることはないだろう。


両足から靴を脱がせ靴下も脱がせていく。されるがままの小夜はただ虚ろな表情で宙を見つめていた。

「小夜」

呼び掛けると身体が僅かに動いた。両足の間に身体を割り込ませ膝から腿に手を這わせ身体を倒し密着させていく。スカートの裾は上がり、手は足の付け根にたどり着いた。

「文人さ、ん」

先ほどよりもはっきりと名が口にされる。ゆっくりと瞳が動き僕に合わせられた。

「小夜ちゃん?」

薬の効力がきれはじめたのかと呼び掛けると小夜は黙ったまま見つめ続けた。


もう片方の手で腹部から指先を辿らせ胸、首、頬と撫でていく。温かく柔らかい感触が指先に残っていく。小夜の全てに触れてみたかった。

「あたたかい」

たどたどしく呟かれた言葉に少し驚く。
再度頬を撫でると身を委ねるように目を閉じた。
その様子に不思議な感覚を覚え小夜の耳元に囁いた。

「ただ満たすのは君の存在だけだ」


眠る小夜をしばらく見つめ、離れた。
乱れた服装を整え抱き上げる。
大切に大切に壊れないように扱う。
あれだけの傷を負っても人ならば生きていけないような事をしても生き続ける少女。壊れるわけがないのに。

「小夜ちゃんは特別だから」

眠る小夜に顔を近づけ囁く。
小夜が全て。思考の全てを奪われる。小夜という存在に満たされる。満たされたい。欲しい。

小夜を抱き上げたままもう陽の落ちた外へと出ていった。



H24.6.13