弱者
「答えなんてないよ。言っただろう?感覚的なものだって。小夜だからだよ」
椅子に拘束した小夜の前で屈み、二つに結われた髪を掴み上げた。
小夜は真っ直ぐ怒りを向けてくる。
小夜はどちらかと言うならば自分は弱者だと言った。でも僕にとって小夜は強者だった。
「無駄だよ、小夜」
手枷の填められた両手を振ると鎖の音が鳴る。幾度となく聞いた音。小夜は無駄だと理解していながらやりきれないのか両手を振った。
「小夜は自分が弱者だというなら僕は何になる?」
先程は小夜を捕らえた僕は強者となるのかと問いかけた。それは違うと僕も小夜もわかっていた。
「お前は得体が知れない。私の中では計れない。だからどちらにも該当しない」
小夜は睨みつけたまま淡々と答える。
笑みを浮かべ小夜に見せつけるように片方の髪の毛先を口元に寄せた。
「……私を所有物のように扱って楽しいか」
滑らかな髪を指先で撫でながら、片方の髪から手を離し頬に伸ばす。
触れられるのがわかり僅かに身を退こうとしたものの今の状態では無意味だった。
「そうなったらどれだけいいだろうね」
指先でそっと頬を撫でると小夜は怒りを表すように食い縛る。
拘束具により僅かに開かれている足の間に膝を置き、小夜を見下ろす。
頬から目尻に指を辿らせ瞳を見つめる。
「私を自分の人形にしたいのか」
「どうだろう?」
はぐらかすように答える。間に置いた膝を奥に入れ込ませるとスカートの裾が上がった。
距離は更に縮まりこのまま小夜を覆い隠せてしまうんではないかと思う。
「お前は強者になりたいのか」
「訊いてばかりだね、小夜。でもそれはないよ」
「ではなぜ……っ」
訊いてばかりと言ったのが過ったのか途中で言葉を止め口をつぐんだ。
ずっと掴んだままの髪を指先で弄る。
「確かに君は強者だ。君を使えば僕も強者になれるかもしれない」
目尻から頬を辿り首筋を撫でる。
小夜は言葉の続きを待つように凝視するけど続きを口にするつもりはなかった。
首筋から手を離し、人差し指で小夜の唇に一瞬だけ触れた。
「小夜は綺麗だ」
何度も口にした言葉。それ以外思い浮かばないぐらい小夜は綺麗だ。全てを埋め尽くすほど。実際埋め尽くされている。
それだけ言い体勢を直し小夜の前に佇んだ。
「……文人」
言うつもりがないとわかっているのか小夜は僕の名前を口にして睨むだけだった。
乱れて上がった裾からは綺麗な肌が見える。幾度傷つけられても綺麗な肌。それは異形の力だとわかっていた。
でも力に魅せられたのかというと違う。小夜だからとしか言い様がなかった。
「君が欲しいよ、小夜」
でも手に入らない。翻弄される僕は弱者だ。だから対する小夜は僕にとっての強者だった。
赤い瞳に見つめられ欲するように手を伸ばしていた。
H24.8.27