部屋の中で目覚め、眩しさに目が眩んでいると鬼の面をつけた者達に取り囲まれた。

「……またか」

幾度となく身体に傷をつけられる。同時にそれを人にやらせる。
ふらつく身体で立ち上がり無意識に取った刀を握りしめる。薬で思考を奪われそうになる。それでも私はただ痛みを受けるだけで気づけば膝をついていた。


鬼の面をつけていようと鬼になれはしない。人だ。今の状態で刀を振るえば命をとりかねない。文人はそれもわかっていて私に薬を投与したのだろう。

「……文人」

相変わらずあの男の真意は計れない。目的があるはずなのに目的が見えない。私を兵器として使いたいのか。ならばそうすればいい。

「……こんなことに何の意味がある。私は死なないとわかっているだろう」

視線を壁に向ける。その先に文人がいるとわかっていた。強い視線を感じる。壁など意味がないほどに私を見るあの男の視線が。
痛む足を立ち上がらせ引き摺りながら進む。

「文人っ」

刀を握り駆け出そうとした瞬間背中に痛みを感じて身体から一気に力が抜けたように倒れ伏した。
やっと終わったのだと無理矢理引き込むような眠気に抗うこともなく瞳を閉じた。


目覚めるとまだ視線は高い位置にありすぐに吊り下げられたままなのだと気づく。
薄暗い部屋に血とその血の元である私が吊り下げられている。端からは見れないが見なくても悪趣味な光景だとわかる。
文人はいないようだった。視線を俯かせると私に巻かれていた包帯が散乱していた。
傷を負わせながら治療をする。すぐ治るとわかっているのにも関わらず。
無駄だとわかっていながらも鎖を壊せないかと腕を引く。微かに振ってみても金属音がするだけで状況は変わらなかった。

「そんなにしたら手首に痕がつくよ、小夜」

先程までは部屋には誰もいなかった。まるで隙をつくように入ってきた文人を無言で睨む。

「お前は私の力が欲しいのだろう」

以前にすでに否定された問いを再び投げ掛ける。それ以外検討がつかなかった。
実験と称して同じように私の身体を使うものもいたが、文人の行う実験は何を確かめたいのかが見えない。最初こそ色々と変えて行われた実験も最近では人に私を傷つけさせるのが主だ。それは私を酷く疲弊させた。

「前にも言ったよね。欲しいのは力じゃない」

文人が歩み寄り私の前に佇むと顎に手をかけられ顔を上げさせられた。

「ならなぜ私を捕らえる。お前の目的に私が邪魔になるからか」
「小夜が邪魔だなんてことはないよ。むしろ主役は君だ」

間近にある顔に微笑が浮かぶ。
せめて動く顔で抵抗するように顎にかかる指を振り払った。その反応すら楽しそうに見つめてくる。

「……古きものの血だけが君を生かすんだよね?」

微笑が消え少しの間のあとの問いかけには答えずに顔を逸らした。

「人の血が君の糧になるわけがないね」

無言を肯定と取ったのか文人は呟く。
長い時を生きて差し出された事はある。だが私は拒否した。
同胞を食らいながら守りたいものからも得るなどできるわけがない。

「しばらくしたらまた来るよ、小夜」

反応しないように努めているとその言葉のあとにすぐに靴音が響いた。
顔を正面に向けると文人が背を向け扉に向かっていた。
扉が開き僅かな光が差し込む。出ていく寸前にこちらに視線を向け姿を消した。


扉が閉まり再び薄暗い部屋になる。
まるで置物のようだと感じた。

「……もしくは人形か」

人の形をしている自身を表しているような言葉に虚ろになる。
目的もわからないまま憎しみは募る。人への思いゆえに文人への許せない感情が積み重なっていく。

「文人……」

私を見つめる瞳が過りながら名を呟き瞳を閉じた。



H25.5.13