感触
運命かのようだった。
「今、笑っているだろう」
「どうして?」
ある邸宅の部屋を映す画面を見ながら、受話器から聞こえる声に返す。
「理由なんてない。だがわかる」
「それは蔵人が僕の従兄弟だから?」
電話の相手、殯蔵人が呆れたように息を吐いたのがわかった。
「先程のやりとりはお前の事だから見ていただろう。わかったら希望通りの服を寄越すんだな」
「小夜が嫌がって着てくれなくなっても困るから考えておくよ」
蔵人は先程の邸宅のエントランスでの小夜と蔵人の会話を言っているのだろう。
画面は和室に切り替わり暗がりの部屋に少女、小夜が入ってくる。
「お前が困ることなんてあるのか?」
「相手が小夜だからね」
蔵人は今度は理解できないと言いたげに沈黙し息を吐いた。
小夜は部屋の中央まで来ると窓から外を眺めているようだった。それに促されるように背後にある景色に身体を向ける。
同じ空を小夜と共に見つめる。
「文人」
「なに?」
邪魔をするように呼ばれ、身体を机に戻す。
小夜はまだ外を眺めていた。操作をし顔がはっきりと見えるまで拡大していく。
月明かりを受ける小夜は綺麗だった。
「あいつは何も口にしないぞ」
「それはそうだろうね」
「飲食を一切しない。これでは薬も盛れないだろう」
「だから諦めろって?」
「そうじゃない。もっと効率のいい方法があるだろう」
「駄目だよ。小夜から来てくれないと」
小夜が来るのを待っている。
僕の事を考え、僕の事をあの刀で斬る事を目的に、僕を目指してくる。
「それにせっかく監視できる場所に来てくれたんだからそれを最大限に使わないと」
「サーラットも無駄ではなかったな」
小夜は僕のいる東京を目指し、その東京で僕と接点のある人物と接触した。
小夜は気づいていないだろう。小夜から来てくれた事に運命を感じた。そんなもの何にもならないのに喜んでいる自分がいる。
「また笑っているだろう」
「……あぁ、話の途中だったね」
蔵人が段々と苛立ってきているとわかっていながら否定しなかった。
小夜の瞳が赤く染まる。きっと僕の事を考えているのだろう。
「もし薬を入れるなら珈琲にしてくれるかな」
「は?」
「きっと飲む」
浮島のカフェのカウンター越しに笑う小夜が思い浮かぶ。安心すると言って笑った顔が。
「わかった。だがうまくいく保証はないからな」
「うん」
通話を切り、受話器を置くと小夜は刀を手にし部屋の隅に座り込んだ。
どうやら眠るようだった。小夜は身体を横たえて寝はしない。決して気を許しはしないだろう。
でもあの場所はきっと小夜には居心地がいい。
「そして珈琲を前にしたらどうするのかな。ねぇ、小夜」
刀を抱き締めるように瞳を閉じる小夜。画面越しに頬を撫でる。
小夜自身の感触を指に感じることはない。
背もたれに体重をかけ、目を閉じる。
目の前の画面内には小夜がいる。
「…れ……いよ、小夜」
眠りに落ちる前に無意識に呟かれた言葉は記憶に残ることはなく小夜と共に眠りについた。
H24.6.16