我儘


ひとけのない洋館。
昼にはまだ時間は早い。もう少し経ってから探したほうが彼女は怒らないだろう。
でも怒る彼女も綺麗だ。何より僕が早く彼女に会いたかった。

「小夜」

廊下の角を曲がった時、この洋館のもう一人の住人の彼女がいた。

「まだ昼じゃない」

後ろ姿に呼び掛けると一瞬だけ作業を止めてそう言った。

「窓拭きなんてしなくていいのに」

近づいて後ろに立つと窓に僕と彼女が映った。

「こんな格好をさせられて何もしないほうがおかしい」

窓に映る小夜を見つめるけど小夜は拭いている上の方を見ていた。
映る小夜の姿は長い丈のメイド服姿だった。

『頭がおかしい』

その服を差し出し時のた小夜にはそう言われたけど嫌々ながら着てくれた。
特に命令することはないけど色んな小夜が見たかった。

「文人」

小夜に呼ばれて我にかえると窓に映る小夜が映る僕を見ていた。

「なに、小夜」
「真後ろに密着されると動けないからどけ」

予想はついたし小夜が動きづらいように真後ろに立ったけどあまりに予想通りな態度に苦笑する。
だからあえて退かずに両腕を小夜の腰に回した。

「どけ」
「どけないかな」

笑みを浮かべて言うと小夜が怒るのがわかる。
さっきも押し退けて行ってしまえばよかったし今も振りほどけばいい。
だけど小夜はそれをしなかった。

「僕がこないと小夜本当に一日中メイドみたいな事してるし」
「お前が着せたんだろう」
「小夜は意地悪だよね。わかっててやってる」
「お前にだけは意地悪だと言われたくない」

小夜の声を聞きながら髪に顔を寄せた。いい香りがした。血の匂いではなく、柔らかい香り。

「今日は何もしてないよ」
「これは何だ。妨害か」
「小夜といたいだけ」

小夜の香りに酔うように目を閉じていた。
小夜からの返答がなくなり目を開けるとじっと窓に映る僕を見つめていた。
それを見つめ返す。本当は直接見つめあいたい。
でもまだこの腕をほどきたくはなかった。



H24.6.2