続・探索


昼食後の珈琲を飲み終えカップを片付けて食堂に戻る。
すると先程席に座っていた小夜が佇み待ち構えていた。

「どうしたの、小夜」
「昨日の話だ」
「昨日?」

考えるふりをしかけると小夜が睨んできたのでやめる。

「小夜が僕の部屋を探してたよね」
「そうだ」
「それで話は終わったよね」
「文人は部屋を作ろうと思わないのか」

小夜の問いかけが意外だと感じ黙ると小夜は数歩僕に近寄った。それでもまだ距離はあり手は届かない。

「僕にとってどの部屋も同じ。服とかは別に置いてあるし他に置く物もない。だから必要ないよ」
「……私は」

小夜が何か言いかけた。
話の流れから小夜が僕に自分の部屋を持つよう言いたいのはわかる。でもなぜ小夜が部屋にこだわるのかが理解できなかった。

「っ……危ないよ、小夜」
「近づくな」

一歩近づくと小夜の足が振り上げられ、ヒールの踵が向けられた。昨日の僕の足を踏んだ事といいすっかり靴を使いこなしている小夜に苦笑する。
小夜も当てるつもりはなかっただろうけど反射的に身体を後ろに引かせていたため、そのまま一歩下がった。

「今日がスカートならよかったのにね」
「見ても得はしないだろう。たかが下着だ」

今日の小夜は黒いホットパンツだった。足の綺麗さは際立つけど少し残念だと思う自分に笑ってしまう。

「小夜はどうして僕に部屋を持たせようとするのかな?」
「私は何も言っていない」

僕が近づかないのを確認すると振り上げた足が下ろされた。

「わかるよ」

そう告げると小夜はしばし考えるように視線を逸らした。
今近づこうとしてもやはり先程のように止めるられるだろう。だから待った。

「文人はどんな部屋が欲しい……?」
「小夜がいる部屋」

即答すると小夜は怒りながらも困ったような表情をした。昨日の会話が過ったのかもしれない。

「私はこの屋敷にいる」
「わかってるよ」

居場所が欲しいわけではない。小夜がいればよかった。だから小夜と暮らす場所で一人の居場所を作る必要もない。
小夜が少しだけ悲しそうにするから僕は笑みを浮かべた。

「私が……文人の部屋を訪ねたいと言ってもか」

小夜の言葉に浮かべた笑みはすぐに消えた。

「僕が、小夜の部屋に行くように?」
「そうだ」

確認するように尋ねると小夜は頷く。
小夜の部屋は特別だった。小夜が安心して身体を横にして眠りにつける場所。衣服が置かれ、小夜がたまに持ち込む本があり小夜の生活を表す場所。
小夜の部屋は好きだった。小夜がそこにいるのだとわかるから。

「小夜が来てくれるなら部屋を持とうかな」

単純だとは思ったけどそう考えている自分がいた。
僕の言葉に小夜が微かに笑みを浮かべて踵を鳴らしながら近づいてくる。

「部屋を探しに行く」

小夜の言葉に頷いて手を取り引かれるままに食堂を後にした。



H24.7.16