続・暗闇


夜。部屋にいると突然照明が落ちた。
扉を開けると普段は薄暗くも明かりが点る廊下も全て消えていた。

「……またか」

先日も同じように屋敷内の明かりが消えた。
考えずとも文人の仕業だとわかる。
このまま部屋にいることも考えたがそのまま廊下に出て扉を閉めた。
緩やかに歩を進めながら窓を見遣る。外も中も静まりかえり、私の靴音が響く。微かに風に揺れる木々の音がした。

『怖くない?』

先日の文人との会話を思い出す。
浮島の時も恐怖について問われたことがあった。恐れては守れない。恐れるのは守れないこと。
ただそれが文人の問う恐怖にあてはまるかはわからなかった。

『寝覚めの悪い夢を見た次の日の夜は眠るのが少し怖くなる』

なぜそんなことを口走ったのか。些細なものだ。だけど事実で、恐怖について巡らせると今までの事の断片を夢に見ては怖くなる。自身のことや関わってきた人、後悔、怒り、悲しみ、寂しさ。色んな事を思い出す。
だから次に眠る時にまた夢を見てしまうのではないかと怖くなる。悪夢ではない。大切なものもある。だが人ではないのだという事、居場所も温もりも得られない事を認識させられる。

「……っ」

曲がり角を曲がった瞬間に何かに阻まれ足が止まった。視界も遮られる。
だが見えずとも状況はわかっていた。

「文人、何のつもりだ」
「驚いた?」

聞きなれた声が頭上から聞こえてきた。
背に腕が回され更に寄せられ文人の身体に密着させられる。

「隠れてたのか」
「気づかれると思ったけど気づかなかったね」

普段ならば気づいたが考え事をしながら歩いていたせいか文人の気配に気づけなかった。
手を文人の胸にあて離れようと力をいれた。

「……離せ」
「せっかく小夜から飛び込んできてくれたから」

文人の腕にも力が入り軽い力では逃れられない。
顔が文人の胸に押し付けられ少し息苦しい。

「お前が待ち構えていたんだろう」
「そうかもね」

顔は見えずとも文人が笑っているのがわかり抵抗をするのをやめた。
文人もそれがわかったのか腕の力が緩んだ。

「小夜は小さいね」

片腕が動き、私の髪を取ったのが見えた。滑らせるように毛先まで辿り着くと指先で弄る。それを見つめた。

「だから何だ」
「こうして閉じ込めるみたいに抱き締められる」

背に回る片腕に再び力をこめられ頬が胸に押し付けられる。

「……私は閉じ込められているわけじゃない」
「うん」

文人はわかっていて発言したかのように頷いた。
文人の指先から毛先が滑り落ちたのを見て、文人をゆっくり見上げた。
そして文人がよく私にするように指先で頬に触れる。

「小夜?」

文人の行った事を許しはしない。ただ私に対してした事に怒りはもうない。だから文人を見張る意味もあり私は共にここにいる。
それだけではないとわかってはいる。

「なぜ照明を消す」
「何でだろうね」

文人は笑みを浮かべる。文人自身もわかっているのかいないのか。
頬を一撫でして離し、顔を下げ額を胸に押し付けた。

「消さなくても私は出てくるし、来てもいい」

しばしの沈黙のあと、両腕で再び強く抱き締められ頭に文人の感触を感じた。
文人は何も言わなかった。だから私もそれ以上何も言わずに微かな息苦しさに心地よささえ感じて目を閉じた。



H24.8.25