夜半
ある部屋へ向かい角を曲がると目的の扉の前に小夜が佇んでいた。
「珍しく、もないか。近くに書庫があるからね」
「また屋敷内の照明を全て消すのか」
先日二回ほど屋敷内の照明を消した。スイッチ一つで全ての照明のオンオフができる。そのスイッチが小夜が佇む扉の部屋にあった。
「待ち伏せしてたんだ?連日なわけじゃないのによくわかったね」
止めた足を進めて小夜の前に立つ。小夜は何も言わずに見上げる。
小夜がいることも構わずに扉のノブに手を伸ばした。
「なぜ、消す?」
静かに制するように問いかけられ、ノブに触れる前で止まった。
「答えなんてないよ、小夜。消したいから消すんだ」
「必要ないだろう」
理由はないのかもしれない。最初は小夜が暗がりを怖がるのかという興味だった。でもそれはすでに知っていた。小夜は恐れないと。
「小夜はどうしてここにいたの?」
ノブに伸ばした手を下ろして問いかける。
小夜が睨むような視線を向けて逸らした。
小夜は僕を止めるために待っていた。それはすでに僕が小夜に言った事だ。
目的を訊いたわけじゃない。なぜ小夜は僕を止めようとしたのか。それは僕が照明を全て消そうとしたのかという問いかけに似たものを感じた。
「……一緒に」
「一緒に?」
小夜が何を言うのか予想ができず、躊躇いがちに呟くように言われる言葉を聞き返してしまう。
「……寝たいのか?」
視線を逸らしたまま訊かれて対応に遅れる。
すぐに以前から小夜と一緒に眠りたいと言っていたことを思い出した。冗談ではなかったけれど小夜の方からその話題が出るとは思わずに驚いていた。
「違うならいい。消したいなら消せ」
何も言わなかったせいか小夜は少し早口に捲し立て扉の前から去ろうとする。
「うん」
背を向きかけて小夜にそう返すと小夜は再び僕を見上げた。
「一緒に眠りたいよ、小夜」
人差し指の背で小夜の頬を撫でる。
「どちらの部屋で寝ようか?」
「……文人の部屋だ」
小さく答えて小夜は先に歩き出した。その横を歩く。
夜の廊下は窓からの月明かりと照明はあっても数は少なく薄暗い。
小夜は窓から外を眺めた。少し遅くなる歩に合わせる。すぐに窓から顔を戻すと僕の視線に気づいたのかこちらに視線を向けた。
「何だ」
「綺麗だね」
小夜は視線を逸らす。幾度となく口にした言葉。
「それ以上言ったら眠らない」
「一晩中起きてるの?何しようか」
「そういう意味ではない」
わかってはいたけどわざと言う。
そんな言葉を交わしながら小夜と僕の部屋に向かった。
H24.8.29