続・夜半


文人の部屋を訪れるのは初めてではなかった。
置かれている家具は私の部屋と変わらない。でもやはり私の部屋とは違う雰囲気の部屋だった。
扉の閉まる音がして我に返りベッドに向かった。

「あれ、もう寝るの?」
「寝に来たのだから当たり前だろう」

自分で言っていて今の状況がおかしなことに気づく。
文人と共に同じベッドで眠る。拒否はしないが眠る必要があるのか。そもそもなぜ承諾したのか。
ベッドを見つめしばし考える。先程の文人が過り、靴を脱ぎベッドに入った。

「小夜?」
「何だ」
「何で僕の部屋だったのかな」

身体を横向きにし文人に背を向けると文人が話しかけてきた。
どちらの部屋で眠るかという問いに文人の部屋と指定したのは私だった。

「以前私のベッドで寝た時に文人がおかしなことを言っていたからだ」
「おかしなこと?ああ、小夜の中にいるみたいって言った事か」

文人が思い当たるとは思わなかったため少し驚いた。
ベッドが軋み文人もベッドに入ってきたのがわかった。
反射的に離れようと隅に寄ろうとすると後ろから腰に腕が回り引き寄せられた。

「離れろ」
「一緒に寝るのに?」

身体が密着して動きづらくなる。耳元で文人の声がして逃れようと顔を動かすも意味はなかった。

「一緒に寝る事は承諾したが密着する事は聞いていない」
「僕はこの体勢も含めて一緒に寝たいって言ったんだ」

反論したところで言ったら断るからと言われてしまえばそれまでだ。言われていたら私は最後まで断ったのだろうか。

「小夜?」
「私は眠る」

会話を打ち切るように言い目を閉じた。
私が逃げないことがわかったのか回された腕が一度離れ、覆うように腕が私の身体に載せられる。
眠りに落ちようとするものの眠れず、ふと浮島での出来事を思い出した。


父様がいない日。帰宅しても誰もいないのだと帰ると文人がいた。
文人は泊まると言ったが私はどこかでそれが嘘だと気づいたのか、眠りにつけずに窓から月を眺めていた。独り、なのだとぼんやりと思いながら。
なぜか文人が部屋に様子を見に来て、眠るまで手を握っていると言ってきた。
でも朝方起きたら文人は隣で手を握ったまま眠っていた。畳の上で。


「ずっとお前は……」

呟き目を開ける。
あの時とは違い、目の前には誰もいないが背に感触がし、耳元に息遣いが聞こえる。
載せられた腕が腰に回り更に引き寄せられ、頭に顔が寄せられた。
微かにベッドから香る文人の匂いと後ろから抱かれる体勢にこれでは反対に私が文人の中にいるような感覚がして、文人が私の中にいると言った時の気持ちが何となく理解できてしまい複雑になる。

「小夜」
「何だ」
「浮島で一緒に寝た事はあったけどあの時は僕は布団の中には入らなかったから不思議な感じだね」
「あの時の私なら入ってきても文句を言わなかっただろう」

むしろ自分から入れようとしていたが起こしてしまいかねないためやめた。それは文人には言わないでおく。

「何で入らなかったんだろうね……」

文人自身がわからないものが私にわかるわけがないがどこか自嘲めいた声音に何も返さなかった。
もう隙間などないのに擦り寄るように文人が身動ぐ。

「おやすみ、小夜」

幾度となく聞いた言葉に再び目を閉じた。
あの時のように文人の手を握って。



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