朝の務めが終わり神社の階段を下りていく。

「今日もいい天気」

空を見上げながら呟くと歌いたくなる。
息を吸い込んだ瞬間以前の出来事を思い出し、片手で口を押さえた。

「もしまた文人さんに聞かれてたら恥ずかしい」

今日は学校は休み。休みの日は朝食を食べに行かないこともあるけど今日は父様から行くよう言われた。

「今日は歌わないんだね。恥ずかしがることないのに」

階段を下りきり、目の前のカフェに向かいかけて声が聞こえた。

「ふふふ、文人さん!?」

以前の再現かのように周りを探してみると以前と同じ場所からホースを持った文人さんが現れた。


「……忘れてほしいです」

カフェの中に入りいつもの椅子に座る。すぐに珈琲がいれられたカップが目の前に置かれた。

「どうして?」
「恥ずかしいです」
「可愛いのに」

文人さんが笑顔で言ってくれても恥ずかしいものは恥ずかしく俯いた。
あの言い方では私が歌いかけて慌ててやめたのを知っているかのようで恥ずかしかった。

「今日は巫女さんの服なんだね」
「はい。休日ですし父様のお手伝いもしたいので着替えていないんです」

文人さんは私の朝食を作るため背を向ける。
朝この光景をみると一日が始まるのだと思う。

「そうなんだ。小夜ちゃんはどんな服が好き?」
「服、ですか?この巫女服も制服も気に入っています」
「着てみたい服とかはないのかな?」

文人さんの質問に首を傾げながら考えこむ。
自分が普段着ている服から考えても何も浮かんでこない。
そもそも持っていただろうか。

「小夜ちゃん、珈琲冷めちゃうよ」
「はい」

言われてカップを手にする。でも口はつけずに中身を見つめる。香る湯気にぼんやりとしながら呟いた。

「……セーラー服」
「え?」
「いえ、着たことはないのですがセーラー服が思い浮かびまして」
「着たいの?」

できたばかりの朝食を置きながら文人さんが聞いてくる。
何だか視線を合わせていられなくてカップの中身を見つめ続ける。

「動きやすそうですぐに脱ぎ着もできそうで……」
「小夜ちゃんは動きやすい服が好きなんだね」

遮るように言われて顔を上げると文人さんはいつものように笑っていた。
まだ口をつけていなかった珈琲を飲むとぬるくなっていたけど美味しかった。

「そうなのかもしれません。この巫女服も少し動きにくくて。あ、でも嫌いとかではないんです!」
「動き回りたいお年頃なのかもしれないね」
「そうなのでしょうか?」

出されたフォークを手にして野菜を刺す。

「巫女服も制服も小夜ちゃんに似合っていて僕は好きだよ」
「あ、ありがとうございます」

気恥ずかしくて視線を俯かせフォークを口に含んで野菜を噛む。
すると頬に温かみを感じた。顔を上げると文人さんの手が頬に触れたのだとわかる。
すぐに手は離れた。離れる瞬間に指先で微かに頬を撫でて。

「冷める前に食べて。食後に珈琲とギモーヴもあるからね」
「はい」

頷く事しかできなかった。
私を見る瞳がいつもとは違った気がから。いつもとは何だろう。
疑問を浮かべながら朝食を食べていく。次第に疑問は消えていった。
合間に飲む珈琲は冷めてしまっていたけどやっぱり美味しかった。



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