共寝


「どちらかだ」

トランプでの勝負が終わり、小夜と共に僕の部屋の前にいた。
勝負は僕の勝ちだった。だから勝負の前に書いた事を一つきくという話だった。

「小夜の部屋では駄目なんだね」
「私の部屋に入るので一つだ」

小夜は頑なに譲らない。
紙には小夜の部屋で一緒に眠ると書いた。だけど小夜はこれでは二つだと主張した。

「わかった」

小夜にしては珍しく意固地なため、理由を訊いてみたくなり粘ったけど言うつもりはないようで今晩は諦める事にした。
僕が答えると小夜は扉を開けて部屋に先に入った。
小夜と一緒に眠るのは二度目だった。

「やっぱりすぐにベッドに入るんだね」
「眠りに来たとこの間も言っただろう」

先日と同じように小夜は真っ先にベッドに向かった。
言いながら靴を脱ぎ、ベッドに入っていく。身体を横たえて背を向けた。
浮島で小夜の隣で眠った事がまた過る。小夜も先日その事を話していた。
あの時は畳の上で、小夜の言う通り入る事もできた。それでも入らずにただ手を握った。

「眠らないのか」
「眠るよ」

ベッドの脇に佇み背を向ける小夜を見つめていると小夜が声をかけてくる。
促されるようにベッドに入り身体を横たえた。
仰向けに寝、天井をぼんやりと見つめた。
しばらく沈黙が続くと小夜が身動ぎこちらを振り返る。

「どうしたの?」

小夜に視線を向けると視線を逸らされた。しばし考えるように口をつぐむ。

「……以前と違う」
「触っていいの?」

呟くように言われてすぐに思い当たりからかうように言うと睨みつけられる。
苦笑して小夜に身体を向ける。でも触りはしなかった。

「お前がそれでいいなら、別にいい」

そう言うと顔を戻してしまった。
浮島での小夜は寂しいと、悲しいと言った。それが不可解だった。
だから入れなかったのかはわからない。

「小夜……」
「……何だ」

呼び掛けると小夜は返してくれる。
結んだままの髪にそっと触れた。結っている紐をほどいていく。浮島からずっと使用しているものだ。

「小夜の髪は長いね」
「特に意識したことはない」
「そうなんだ?戦うには邪魔にならなかった?」
「なる時もあったがさして気にならなくなった。だからそのままにした。さすがに結びはしたが」

もう片方を結っている紐もほどき、上に置く。
小夜の身体の下に腕を滑り込ませ、もう片方の腕も回して引き寄せるように抱きしめた。
小柄で柔らかい身体は腕の中に納まる。頬を頭に寄せて身体全体で小夜の感触を確かめる。

「……お前はよく触れるな」
「ずっと触れたかったからね」

少しの間を開けて小夜が更に話し続ける。

「浮島の時……いや、ずっとか。私を捕らえてからずっとだ」
「振り払われたりもしたけどね」

捕らえたあとは怒りの表情を浮かべ振り払う事もあれば、無表情で触られるがままの時もあった。
浮島では記憶を上書きしているのもあって触れれば嬉しそうに笑った。

「思い返せば浮島でも本当は嫌だったのかな」
「なぜそう思う」
「“設定”したからね。……小夜?」

手が突然握られ痛みを感じるほどに強く握られた。

「感情を全て操作できるわけがない」

そう言って手が離された。小夜の言葉を考えてみるとまるで先程僕が言った事を否定しているかのようだった。

「寂しい、って言ったのも?」

小夜はすぐには答えない。軽く息を吐いたのがわかった。

「……そうだ」

小夜は根本的には変わらない。変えられない。わかっているはずなのに理解ができない。僕が持つ知識に当てはめられない。

「……あの時布団に入らなかったのは、ただ小夜のそばにいたかったからだよ」

口にして僕も変わらないのだとわかる。小夜をこうして抱きしめてそばにいるだけでいい。
小夜が微かに振り向こうとする。でも密着しすぎて身動きがしづらいのだろう。
僕は力を緩めずに小夜に埋もれるように顔を寄せて目を閉じた。



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