雑談
食堂で小夜の斜め前に座り、先程小夜が読んでいたトランプのゲームブックのページを捲っていた。
「でもこんな小さい本よく見つけられたね」
「順番に見ているからすぐに見つけられたわけじゃない。それにそれは本の上に無造作に置かれていて目立った」
「本棚に並んでる本の上にあったの?」
「そうだ。あんなふうに置かれていたら気になる」
本から顔を上げると小夜は頷きトランプを整えていた。そしてじっと見つめる。
「どうしたの?」
「いや……」
歯切れ悪く言いながらもやはり視線は整えたトランプの束に向けられていた。
そして恐る恐る側面から数枚を引き出す。
「混ぜるならそうやらなくても大丈夫だよ」
小夜が何をしたいのか察し言うとなぜか睨まれた。
すぐに視線をトランプに戻して引き出した数枚のカードを上に載せた。
数度繰り返してるのを見てるうちに何だか可愛らしくて本を置き、小夜を見つめた。
「文人」
「これで大丈夫だよ」
「いつもはお前がこうして混ぜたあとに私が上から取ったのを下に入れるだろう」
たどたどしく混ぜられたトランプの束を差し出される。
いつもは僕が混ぜ、小夜に切ってもらう。小夜は僕にもそうするようにトランプを差し出したようだった。
「いつも小夜に切ってもらうのは僕が如何様をしていないのを証明するためだから」
「ならお前も」
「小夜は如何様をしないってわかってるからね」
小夜の言葉を遮るように言うと小夜の眉に皺が寄った。
「私はよく如何様をしていないか聞いてはいるが、お前ならやりそうだと思っただけでやっていない事はわかっている」
「それでも、ね」
トランプを手に取って上から交互に配っていく。
「文人」
「なに?」
「私はお前が思っているよりも……疑っていない」
「それもわかってるよ」
戸惑いながらも告げられた言葉に返すと手元のカードがなくなった。
「でも性分なのかな。小夜には切ってもらいたい」
「お前がやったことをか」
笑みを浮かべて頷くと小夜の眉間から皺はなくなった。
たかがトランプなのにとも思ったけど今まで無意識にやっていただけに自身に嘲笑する。
「わかった。いや、わかったわけではないが……納得はした」
配られたカードを手にし見つめながら呟く。その表情から感情を読み取ることができなくて凝視してしまう。
「どうした」
「何でもないよ」
そう言って自分の前にあるトランプを手にしてペアになったものを出していく。
「今度は勝負しようか」
「紙に書いていない」
「たまにはいいと思ったんだ」
「……何でもきけるわけじゃない」
「それはわかってるよ」
先程まではただゲームをしていただけだったのを今度は一つ言うことをきくという勝負をすることにした。
小夜は無言で思案するようにペアとなったカードを出していく。
「いつも私がやっていたのは切るというのか」
「そう、カードを切るって言うらしいね」
賭け事などの如何様防止にやることを何かの本で読んだ気がした。
「それを私にやらせるとは悪趣味だ」
「僕がやっても意味がないし仕方ないんだけどね。でも小夜にやってほしいかな」
こうした雑談も最近は珍しくなかった。不思議な感覚はすれど居心地がいい。それは小夜のそばだからなんだろう。
先程の納得したと言った小夜は柔らかな表情をしていた。それがどんな感情かはわからない。
「じゃあはじめようか」
互いに手が止まったところで言い、勝負を開始した。
H24.9.15