続・声息


膝の上に横向きに座る小夜が寄りかかってくる。わざと書く時間を長引かせると小夜は僕を見つめながら身体を傾けた。
小夜とトランプ勝負をして引き分けたため互いのいうことをきいた。小夜は僕に話さない、僕は膝の上に座ってと書いた。
小夜の問いかけに答えずに紙を埋めてしまうと小夜がもう話していいと言い、寄りかかると目を閉じた。

「小夜」

微かに寝息がして寝てしまったのがわかった。
手をとって唇に寄せる。白く細い手を下ろして、髪を掬った。
反対の手で小夜の頬を軽く撫でる。

「引き分けるかは賭けだったんだ」

小夜の先程の問いの返答を呟く。髪を弄りながら天井を仰いだ。

「小夜のいうことをきくのも好きだし、いうことをきいてもらうのも好きだから両方できたらいいなって思って指摘しなかった」
「勝負をする意味がない」

声が聞こえ顔を下げると小夜が目を開けていた。

「短い睡眠だったね」
「寝るつもりはなかった。でも文人の声で起きた」

指の背で頬を撫でると小夜は顔を上げた。

「いうことをきかせる、きく理由が欲しいから勝負をするのか」
「何も賭けずにするゲームもあるよ。ただ小夜といられるならいい。でも」

言葉を区切り髪を掴んでいた手で膝に触れると小夜の眉が微かに動いた。

「こういう体勢になりたいから勝負をしてるというのはあるかもしれない」
「……本当によく私に触るな」
「駄目かな?」

手を上に這わせ靴下が途切れ露になっている太股で止める。

「浮島の時もよく触っていた」
「自覚はないけど本当はずっと一緒にいたかったから無意識に触れてたかもしれないね」
「あれが無意識なら恐ろしいな」

太股の内側から外側に向かって指で撫でる。小夜は何も言わずに見上げていたけれど視線が逸れる。
何か思案しているようだった。
手を更に上に這わせて付け根、腹部、胸、首と辿っていく。

「……共にいる設定は考えなかったのか」

唇に辿りつき、親指が微かに触れた瞬間小夜が口を開いた。

「浮島での設定が限界だったんだよ。小夜の僕に対する憎悪は強すぎた。あそこまで調整するのも結構設定を考えるようだったからね」
「そうしたかったのだろう」

小夜が強く睨みつける。小夜に強い感情を僕に向けさせたかった。あの赤い瞳で僕だけを見てほしかった。
でも今は酷く簡単な答えに辿りついて小夜と共にいる。そう考えると自身を嘲笑してしまった。

「お前は本当に……」

小夜が再び視線を逸らし呟く。
唇を親指でなぞると上目遣いでこちらに視線を向けた。

「次勝負する時は前回と同じことは却下する」
「そしたらどうしようかな」
「全く困っていないだろう。すでに他の案がある口振りだ」
「たくさんはないけどいくつかはすぐ浮かぶからね」

小夜に顔を寄せると小夜の手が頬に触れた。細い指が微かに撫でる。見つめていると撫でる指先が止まり、掌が触れた。
そして小夜の顔が寄せられ目を閉じた。



H24.9.24