六情
過去の映像からプリントアウトしたものをテーブルに並べる。
どの写真にも小夜が映っている。出会ってからこの屋敷で住むまでの小夜。
僕が作ったお弁当を食べている小夜、十字学園で僕を久し振りに目の前にした小夜、唯芳の亡骸を前にした小夜、登校中鼻歌を口ずさむ小夜、東京までの道程僕を探し続ける小夜。
「喜、怒、哀、楽……憎しみ」
写真の中に感情を当て嵌めてみる。彼女の中で僕に対する感情は憎しみだろう。
「……何だ、これは」
「小夜?」
隣から声が聞こえ一瞬幻聴かと顔を上げる。
でも幻聴ではなくそこには確かに小夜がいた。眉間に皺を寄せながら並べた写真を見つめている。
「何故こんなものがここにある」
「小夜との思い出をアルバムに収めようかと思って」
そう言うと小夜に睨まれる。
「私しかいない」
「それは小夜だけにしたから」
「何故」
再び写真に視線を戻した小夜。微かに眉根が下がったように見える。
「何かおかしいかな?」
「ここには私しかいない……」
僕には何の違和がない写真も小夜にはあるようだった。それが何なのかはわからない。
「思い出というならば私以外もいなければ駄目だろう」
「そういうものかな?写真って改めて見る機会もなかなかないし見たい部分だけ切り取ってみたんだけれど」
「お前は……」
言いかけて一枚の写真を指で軽く撫で口をつぐんだ。
小夜の指先にはお弁当を食べている小夜がいた。
「文人」
小夜に呼び掛けられ顔を向けると視線が合った。
「……珈琲が飲みたくなった」
「すぐに用意するね、小夜」
用意するためにその場を離れる。
先程僕の名を呼び、視線が合った時の小夜は並べた写真のどこにもいない小夜だった。
「喜、怒、哀、楽、憎……」
珈琲を用意しながら口にする。写真に当て嵌めた感情のどれとも結び付かないまま、淹れたての珈琲を小夜の元に運んでいった。
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