共にいる空気
「小夜、どれがいい?」
「私が選ぶのか」
花屋の前で二人佇み小夜に選ぶよう促す。しばし僕を見つめ目の前に広がる花に顔を向けた。
「彼女が指してるものをください」
店員に声をかけ用意されるのを待つ。小夜は花に背を向け道を行く人々を眺めていた。そんな小夜を見つめているとやがて店員に声をかけられた。
「ご夫婦でお買い物ですか?」
「え?」
予想外な言葉に思わず聞き返してしまう。外見だけなら僕より少し歳は下であろう女性店員が隣にいる小夜に目を向ける。
「まだご結婚前ですか?」
「あ、いえ。あまり言われないもので」
歯切れ悪く答えたからかそれ以上この話題は続かず一言二言交わし花を受け取り花屋をあとにした。
「恋人も言われたことなかったのにね。兄妹はあったよね」
「お前を兄に持ったら大変だ」
「どう大変なのかな?」
ちらりとこちらに視線を向けてもすぐに前を向いて小夜は答えずに歩いていく。
小夜にも先程の会話は聞こえていただろう。特に何も言わずに佇むだけだったけれど。
「夫婦ってよくわからないけどそういう空気が僕達に流れてるのかな」
なぜ言われたのかわからず口にしてみても小夜は何も言わない。長く共にいて話を聞いてくれているのはわかるから話し続けた。
「制服じゃないのもあるかな」
「制服の方が動きやすい」
日本では小夜の外見年齢から目立ちにくい制服。ある目的のために訪れた外国では悪目立ちすると服を用意した。小夜には珍しい丈の長いスカートを穿いている。
「動きやすいっていう理由で制服を着る学生もあまりいないと思うけどね」
「制服ではないから言われるものなのか」
小夜から話を戻してくるとは思わず少し驚く。歩きながらも小夜に視線を向けていて目が合う。本当は互いに感覚的なものでなぜ言われたかを理解しているのかもしれない。
「ずっと一緒にいたからそう見えたんだよ」
先程と同じようにあえて口にしてみても小夜は何も答えない。笑むと小夜は前に視線を戻した。
「はい、小夜」
目的である墓はもう見えてきていた。立ち止まり先程購入した花束を小夜に差し出す。小夜は花束を見つめてから僕を見上げてくる。
「小夜から手向けた方がいいだろうから」
小夜は花束を両手で受け取った。
小夜が歩き出し、僕は立ち止まる。ここで待っていようとしたらすぐに小夜は振り返った。
「文人」
「なに?」
「私は嫌じゃない」
どちらが?と聞くまでもないだろう。夫婦だと言われたこともこれから墓の前に共に行くのも嫌ではないと小夜は言った。
「うん」
頷くと小夜は再び歩き出す。僕も共に足を踏み出した。
H26.11.21