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久瀬を迎えに行くと既に出掛けたあとで探すはめになった。
携帯にかけても連絡はとれず、街中を見て回る。

「あ!火村さん火村さ〜ん!」

後方から声が聞こえ振り返ると音羽の制服の少女が大きく手を振りながらこちらへ駆けてきた。

「今日も元気だな」
「ですです」

羽山ミズキが勢いよく横に並び笑顔で頷いた。

「久瀬を知らないか?」
「その久瀬さんから任務を承り馳せ参じました!」

ビシッと音がつきそうなくらいの敬礼をされて内容を聞き久瀬に呆れた。

「あいつは俺を呼び出しておいて自分から来ないのか」
「用意に時間がかかるとかで。さ、行きましょう」

軽く腕を引かれ歩き出した。

「火村さん今日お誕生日ですよね、おめでとうございます!」
「ありがとう」

祝われるとは思わなかったから驚きながらも礼を言う。

「立夏なんていい日ですよね」

大体は端午の節句が印象強いのかそちらを言われたことはあるが立夏を言われたのは初めてだった。

「夏が好きだと言っていたな」
「大好きです!暑さに負けず!暑さと共存し!アイスを食べます!」

満面の笑顔が夏の向日葵を彷彿とさせた。でも萎れたように肩を落とした。

「冬生まれなんですよね〜。これから寒くなるって時期で」
「冬至か」
「はい」

以前祝ったことがあり日にちを覚えていた。優子が夏至生まれだったのを思い出し反対ならイメージに合いそうだなと思うと笑いが漏れる。

「火村さん?」
「いや、それよりどこへ行くんだ?」

あまり優子の話題は出さない。ミズキに対しては特にだ。
見慣れた道に大体予想がつきながらも問いかける。

「教会です。教会裏の墓地」


教会だとはわかっていてもまさか墓地だとは思わなかった。ここには優子の墓もある。優子の話をしていた時に体調を崩したと久瀬から聞いていた。今は平気らしいが俺もそんなに話題にするほうではないからあまり話したことはない。

「久瀬さんいませんね」
「そういう奴だ」

きっちりしているのかいい加減なのかわからない奴。真面目なのはわかっているが悟られたくないめんどくさい奴だとも知っている。だから“そういう奴”だ。
教会前で久瀬を待つことにした。

「久瀬さんはバレンタインの次の日なんですよね」
「誕生日を教えずに流せるあいつらしい誕生日だろう」

実際学生時代誕生日を教えずにごまかしていたのを見ている。俺にはなぜか教えてきたが祝う前に海外へ行ってしまった。祝うかはわからなかったが。

「あ〜久瀬さんらしいですね」
「涅槃会でもあるけどな」
「ねはんえ?」
「あいつには全く縁のないものだ」
「火村くんひっどーい!」

久瀬が俺とミズキの間に入り肩を引き寄せた。

「勉強してきます!」
「しなくていいよ!?」
「勉強するのはいいだろう。わからなかったら聞きに来い」
「はい!」

久瀬をからかうように話していると肩から手を離し背を向けてわざとらしく拗ねた。

「それで何の用だ」
「火村夕くんハッピーバースデー!」
「わー!」

振り返り久瀬が両手を広げ上げるとミズキが拍手をした。

「待て待て、引き返すなって」
背を向けると腕を掴まれた。
「優子ちゃんに会いに行こう」


優子の墓まで来ると花とバイオリンが用意されていて、墓の掃除は済ませたあとなのか用具が避けられていた。ミズキに視線を向けるといつも通りに見えた。
ミズキは花の供える準備をし久瀬は演奏の準備をした。

「それでは火村夕のバースデーパーティーの開演となります」

久瀬が畏まって言うとバイオリンの音色が響いた。音楽の教養はないが素直に綺麗な音色だと思う。一度は全てを諦めた者が奏でる音色は儚くも力強く響いた。優子も聞いているだろうか。また聞いて泣いてはいないだろうか。

「羽?」

空を見上げていると柔らかな風が吹き白い羽が見えた気がしたがすぐに消えてしまった。
演奏が止みミズキが花を供える。進展する時は勿論、頓挫しそうになった時もここへ来て優子に報告した。優子の語る街は俺の夢になっていたから。共に叶えるために。

「優子ちゃんも祝えなくて怒ってるよ」
「そんなことないだろう」
「一度も自分の誕生日には来たことないんですよね?」
「来るタイミングがなかっただけだ」

優子といた時間は短かった。お互いの誕生日を祝えないくらいに。

「そうだな。あいつのことだ。怒ってるかもしれないな」

もう一度空を見上げ祝ってくれているだろう天使に心の中で礼を言った。


H27.7.19


誕生日は天使と共に
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