novel top

ずっとこんな事をやっていると普通に会話ができてしまう。
最初はそりゃあ抵抗もあったさ。でも他に会話するやつもいないしな。
次のゲーム開始前にはお茶なんて啜ってしまう。
これがまたうまいから癖になる。

「あなたは安いティーバッグでも満足そうな顔をしてくれそうね」
「は?」

まさかこんないい食器揃えて中身は……なんて事はないだろうな?

「冗談よ。魔女のお茶会に誘っておいて、そんなもの出さないわ」
「どうだろうな。レシートでも見せてもらえたら信じるぜ?」
「魔女にレシートなんてもの貰えるのかしら?」

まるで魔法で出したのだからレシートなんてないと言うように少女は笑った。
外見だけ見れば下手をすれば年齢は一桁だろう。でも魔女だから三桁だという。

「よぼよぼの魔女になるにはどうすればなるんだろうなぁ?」
「魔力が切れればなるんじゃないかしら?もしくは」
「もしくは?」
「誰かが望めば」
「さっぱりわかんねぇよ」

予想通りの反応だったのか少女はくすくすと笑う。
少女には不釣り合いな笑い方なのに不自然に思わせない。むしろ少しだけどきりとする。

「魔女を認めれば何だってできる」
「何だってできたら俺はこんなところにいない」
「確かにそうね」
「あんたはどちらかといえばあいつの味方ではないんだろう?」

一瞬無表情に見られる。
こちらに手を貸しはしないが、あちらにも貸しはしない。
魔女なのに魔女の味方をしない。

「魔女にも名前があるのよ」

名前を呼ばなければ答えないってわけか。
カップに残っていた紅茶を飲み干して立ち上がる。

「もっと味わって飲みなさい」
「遊ばれてるとわかってて長居する気はない」
「わかってるのかと思ってたわ」
「所詮魔女だな。人を弄ぶ」
「質問に答えないからといって蔑むのは弱者のする事よ」

図星をつかれて言葉に詰まる。
対等だとは思っていない。それでもこの時間だけは少しだけ違うんじゃないかと思っていた。
子供じみた考えを口にはしない。そうなるように仕向けたい。

「私はあなたを気にいってるの。真っ直ぐなのは好きよ。わかりやすくて」
「気にいられたのなら何よりだ。でもこっちは気にいらねぇ」
「それでいいのよ。私は魔女なんだから」
「……そうかよ」

背を向けて歩き出そうとする。どちらかといえばこの空間は消え去るといった方が正しい。
消えるのは一瞬。
だから歩いて出ていくように見せる。

「次のお茶会を楽しみにしてるわ」
「昔話でも用意して少しは俺を楽しませるんだな」
「魔女の昔話なんてお腹を壊すだけよ」

返事はせずに振り返って少しだけ笑んで、その場から消え去った。

壊すのが腹だけなら聞きたいぐらいだ。
そんな意味深な瞳で見るんじゃねぇよ。
この魔女め。



H21.2.22

壊すのが腹だけなら聞きたいぐらいだ
prevUnext