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暇潰しだと彼は言った。
ゲームももう4回目を迎えようとしている。
3回目は騙されて終わり。途中で気付きそうなものなのに、あそこまで見事に騙されるなんて。
本当退屈させないわ。
「でもここには何もないのにこのカップとか茶菓子とかどこから出てくるのか不思議だよな」
スコーンを頬張りながら改めて回りを見ていた。
この空間に現実的な事を探しても無駄な事は知ってるはずなのに。
「何も食べれないのは寂しいでしょう?」
「いや、まあ確かにそうだけどよ」
「貴方がお腹を膨らませてくれたほうがいいし」
「は?」
「眠りこけたら寝首をかけばいいし、食べるなら焼いてしまえばいい。さすがに生は嫌ね」
訝しげな目で見てくる。
怒るだろうか、笑うだろうか。
「魔女だからな」
「……」
どちらでもなかった。
いや、笑った。微笑んだ。
何かが入り交じっていて私にはどんな感情なのかがわからない。
「その方が魔女らしい」
「否定しなきゃ駄目よ」
でないと負けてしまう。
わかってるとでもいいたげに一息吐くとカップに口をつけた。
退屈なものは嫌い。
私はあの少女とは違う。
同じであって違う。
この男が気になるのは退屈しないから。
重ねているわけじゃない。
羨んでいるわけじゃない。
退屈なのは嫌いなのに。
この退屈にさせない気持ちは好きではない。
「次で4回目ね」
「え?あぁ、ゲームか。こんな事になってからは3回目だけどな。勝負なんてつくのかなんて思っちまう」
「弱気ね」
まだカップの中には中身が残っているのか、受け皿に置いたカップを彼は見ていた。
中身の水面に映る自分をどう思って見つめているのか。
「盛大に騙されたからな。いい加減人間不信になるぜ」
「魔女を否定してるのに信じるからよ」
「全くだ。だから凹んでても仕方ねぇからこうやってあんたとお茶してるってわけだ」
「私は何もアドバイスしないわよ」
「わかってるよ」
“じゃあ貴方は何故ここに来るの”と聞けば、先程ここを訪れた時のように“暇潰しだ”と答えるだろう。
「……ゲーム盤に参加できない駒がいるわね」
「参加できない?」
「何度同じゲーム盤を用意しても仕組まれたように参加できない駒。本来は参加権を持っているはずなのに」
一瞬彼はわからないそぶりでしかめるが思いあたったのか明るい表情を見せた。
「縁寿の事か。何で知ってるんだ?」
「貴方……ゲーム盤の彼が名前を出していたわ」
「そうか。妹なんだ。開始の前日から調子悪くなっちまって来れなくてな。でも来ない方がいいのかもな」
本当にそう思ってるのだろうか。そう思ってるのだろう。
「縁寿がどうかしたか?」
その問いには答えなかった。
存在は知っていたが実際に見てはいない。だいたいの予想はつくけれど。
新たな駒がゲーム盤に現れたらどんな顔をするかしら。
「俺はこのゲームが終わったらどこに行くんだろうな……」
視線は相変わらずカップの中。多分中身はもうないだろう。
その目で私を見ていたなら気まぐれで何か言っていたのかもしれないのに。
「さぁ?」
だから私はそう答えるしかなかった。
はたして暇潰しはどこにあるのか。
H21.3.1
はたして暇潰しはどこにあるのか
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