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「やるよ」
「いらないわ」
「いいから貰っとけって」
可愛いらしいラッピングがされた袋をテーブルの上に置いた。
それを見はするが手にしようとはしない。
「魔法でも使って出したの?」
「あいにく俺は自分で物が出せないから材料から何から何まで貰いものだ。ただし!」
びしっと相手を指さしてからテーブルの上に置いた物にさした指を移動させる。
指の動きに惑わされる事なく視線はこちらに向けられていた。
「作ったのは俺だ」
「口では何とでも言えるわ」
「うまくもねぇがまずくもねぇ」
「食べる意味がないわね」
しまった。
正直に言ってしまったら興味を持つどころか食べるに値しない物だと言われてしまう。言われてしまったが。
「おいおい。あんたのために作ったんだぜ?世界に一つ!それだけで十分だろ」
「何のために?」
「え?」
「何のために作ったのかがわからないわ」
素直に受け取ってはもらえないとわかっていたがここまで頑なとは。
「わかった。正直に言おうじゃねぇか」
「なに?」
少し興味があったのか、袋を軽くつっつきはじめた。
今から言う言葉で袋の中身の行方が決まるだろう。
「見返りが欲しかったんだ」
「……お茶会だけじゃ足りないなんて、貴方欲張りね」
呆れたように指は袋から離れていく。
しかし俺は言葉を続けた。
「俺からのバレンタイン……チョコじゃないが、とにかくプレゼントだ」
「バレンタイン?」
「だからホワイトデーにはぜひお返しが欲しい」
「残念だけどこの世界には日付の概念がないわ。日にちを気にする者もいないし」
「そのあたりは適当に。なんなら明日が正月でもいい」
「大晦日にバレンタインなんて変な話ね」
「でも嫌いじゃないだろ」
袋に視線を落としてしばし考えると微かに口元が変化した気がした。
僅かに端が上がったような?
「そうね。予測がつかない事は嫌いではないわ」
「ならいいだろ」
「貰ってはあげる。でも返すかは中身次第よ」
もう一番袋を手にして差し出した。
しかし貰うと言ったはずなのに受け取る様子がない。
「義理か本命か聞く前に名前を呼ぶのが先よね」
「あぁ……そうか」
そういえば滅多に名前を口にしなかったな。今日にかぎっては一度も読んでいない。
わざとらしく咳払いをしてから口を開いた。
「貰ってくれるか?ベルン」
「仕方ないから貰ってあげるわ」
ロノウェに笑われながらも作ったクッキーは無事にベルンに渡った。
何かを渡したかった。本当は見返りなんていらない。
でも貰うための約束ができるなら、不粋な渡し方になっても構わない。
これが義理か本命か。
それをはっきりという材料はない。
ただ、渡せたならそれだけで。
H21.4.12
ただ、渡せたならそれだけで。
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