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「今日は俺の誕生日だ」
「だから、何?」
「何ってなー……」
向かいに座っているベルンはお茶を啜った。
いつもと何らかわりようがないとでもいいたげに。
わかってはいたがやはり多少残念と感じてしまう。期待なんてしてないけどな。
「貴方が何かしてくれるの?」
「普通反対じゃないか?」
「私はお茶を出してあげてるわ」
そのあとに続く“それで十分でしょ”と言う声はどこか楽しげに聞こえた。表情に変化はないから本当はどうだかわからないが。
「どうしたの?」
おもむろに立ち上がり、返答はせずにベルンに近づく。
そして何の前触れもなく脇腹を指で突いた。
「何?」
「人によっては急所だがやはり駄目だったか」
「魔女の急所を探したがるなんて物好きね」
次はやはりまた前触れもなく今度は耳元に口を近づけて軽く息を吐く。
こんなに近づいたのは初めてかもしれない。
「貴方が何をしたいのかさっぱりわからないわ」
「わかったら俺の負けだから教えねぇよ」
やはり反応はかわらない。耳元に息は反応すると思ったのだがさすがというべきか、むしろそのほうがやりがいがあるというか。
「じゃあ次は乳を差し出してもらおうか」
「あいにく貴方に差し出す胸は持っていないわ」
「ないからな」
「……何ですって?」
あれと気付いた時には突き刺さるような視線が俺に向けられていた。
予想外な反応。軽口で言っただけだったのに。
「もしかして気にしてるのか?」
「何の事かわからないわ」
視線を逸らして平静を装いしらばっくれているように見える。
これはストライク。かわいらしいフリルの服からは小ぶりではあるがそれなりにはありそうな胸があるのがわかる。
しかしこう言っては悪いが上げ底。すなわちニセ乳。
反応から予想するに俺の予想以上に……小さい?
「やっぱりある程度あるほうが男は喜ぶからな」
「別に男なんて関係ないわ。特に貴方みたいな大きな胸を嗜好としてる男わね」
「興味がない、じゃなくて関係ないなんだな」
「っ!何が言いたいの?」
「べっつに〜?」
煽るように言ってやるとテーブルの上からカップや菓子が消えた。
「今日は帰るわ」
「まー、待った待った」
腕を掴んでも消えられたら意味がないとわかっていてもベルンの腕を掴む。
「ありがとな」
「さっきの話以上にわけがわからないわ」
「悪かったな。気にしてる事言って。でもありがとなって事だよ」
「……わからない事だらけよ、貴方」
「俺にはお前がわからないからな」
腕から手を離して腰に手をあてる。これ以上引き止めてしまわないように。
「今日は楽しかったよ」
「まるでいつも楽しくないみたいね」
「楽しいの中でも特に楽しかったって事だよ」
「予想のつかない事は好きだけど、貴方のわからない所は好きじゃないわ」
「わかるようになったらつまらないだろ?」
「そう、ね」
ベルンの表情は読めない。でも少しだけ言い澱んだ気がした。
繋ぎとめたいからわからないようにしてるわけじゃない。
今日はただ彼女からプレゼントが欲しかっただけ。一つでも違う面が、何かを知れたらそれがプレゼント。
それが彼女にばれてしまえば彼女はプレゼントをくれないだろう。
まだ繋がりのあるうちに少しでも知れたら。
それ以上はまだ望めない。
H21.7.15
繋ぎとめたいからわからないようにしてるわけじゃない
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