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目が覚めるとベッドの上にいた。
おかしい事ではない。

「なんだっ、こりゃあ」

身体を起こそうとして起こせない身体は両手が鎖に繋がれているせいだとわかった。
手首に巻かれた鎖を引いてみるが対して長さはないらしく腕を上げられない。

「お目覚めみたいね」
「あぁ、目覚めたさ!でも何でか身体が起こせなくてなぁ。何でか知ってるか?ベルンカステルさんよぉ」

ベッド脇に現れたベルンにもはや犯人はわかっているように聞いてみる。

「知らないわ」
「そうかよ。じゃあ外すの手伝ってくれよ。犯人探して同じ目にあわせてやんなくちゃいけないからな」

冷ややかな瞳に見下ろされ、ベルンがこの鎖を解くつもりがない事を悟る。
ベルンは軽くため息を吐いてベッドの上に乗ろうとしてきた。

「おいおい、俺を台にでもするつもりかぁ?」

小柄な少女でも腹の真上に乗られたものならなかなか辛い。
拷問にはいい加減慣れたが痛みに慣れるわけがない。痛いものは痛いからだ。

「そうね。台にしようかしら」

やっぱりなと思うと乗せられると思っていた片足が腹を跨いだ。
驚いて小さく声を出してしまった気がする。その反応にベルンは面白そうに笑う。

「私の足に踏まれたかったんでしょう?」
「あいにく苦痛からは快楽を感じねぇな」
「そう」

そう短く答えると俺の腹の上に腰をおとした。
柔らかい感触ときわどい体勢にそんな場合ではないのにいらぬ欲が沸き上がる。

「表情が変わったわよ。変態ね、貴方」
「女に乗られて平静でいられるほど充実した生活はしてないもんでな」

それでも強がってみるがベルンの狙いどおりになっている事はわかっていた。

「やめろっ」

指がジャケットのボタンを外し、ネクタイを緩める。
ジャケットは大きく開かれるがシャツのボタンは胸までしか外されなかった。

「随分と手際がいいな」
「簡単だわ。ただはずしていくだけなのだから」
「っ……」

細い指が首筋から胸にかけてゆっくりと辿る。
ただの指先一本のはずなのに、かえって触られた感覚に集中してしまうのか快感に顔をしかめた。
またその様子にベルンは笑う。

「いい加減にしろ」
「そんな事言って、本当は欲しいんでしょう?もっとなんて言えば私が飽きてしまうと思ってるんでしょう?」
「違う!」

違うと思いたかった。
感情のわからない瞳に見据えられて、できるならその瞳のようにこの感情も冷えればいいのに熱くなるばかりだ。
だけどこんな事を望んでいるわけじゃない。

「飽きないわ。だから」

促すように指先が胸から首筋へ上がり、頬を撫でる。
熱を逃がそうと抗って軽く息を吐いて見ても変わらない。

「……見えねぇから、言わない」

確かにそこにいるはずなのに見えない。見せないのかまだ見る事ができないのか。

「見えないものを欲する事なんてできねぇ!」
「本当に面白いわね」

一瞬目を見開いたのが見えた気がするが、すぐにまた笑んでいた。
楽しい玩具でも見つかったのかとでも聞きたくなるような表情だ。

「なっ、やめ」

ベルンの指先が離れたかと思うと下半身に違和感を感じた。
気付いた時には自身を取り出され、軽く身体を浮かせたベルンがすぐにその上に腰を落とす。

「っ、は」

俺が口にして望まなければ行われないと思っていた行為は、拒絶にもとれる言い方をしたら行われた。
予期せぬ快楽にすぐに達しそうになるが達する事はなかった。

「お前……なにか、したなっ」
「してないわ。貴方が勝手に欲情して勃たせただけ。だから私はその上に乗っただけよ」

まるで椅子に腰をかけたぐらい軽く言う口ぶりに悔しさを感じる。
自分の身体なのに思い通りに行かず、むしろベルンの思惑通りな気がする。

「はっ、結局お前が俺を使ってよがりたかったんだろ」
「違うわ」
「何が違、うぁ」

微動だにしなかった身体が動かされ、快感が声に出る。
この状況を何とかしようと両手を思いきり引いてみても鎖が絡みついた手首が痛むだけ。
下半身はもう言う事を聞きそうにない。むしろ自分から腰を揺らしてしまっている事実に目をつむるしかなかった。

「駄目よ」

間近で低い声が聞こえて反射的に目を開けた。
目の前にベルンの顔があり、身体を支えるように両手は俺の胸に押さえつけられている。

「ご丁寧にっ、シャツの中に手を……入れるな、よっ」

熱くなって汗ばんだ肌にベルンのひんやりした手は気持ちよかった。

「見えるものも見えなくなってしまうわ」

だから目をつむるなと光のない瞳で見つめられる。
俺の荒い息に反してベルンの息はあまり乱れる事なく、これだけ近くに顔を近づけいても唇が下りてくる事もない。

「見ててあげる。ずっと」
「くっ、あ」

軋むベッドの音が激しさと快感が比例するように増す。
手首の痛みも増したがさほど気にはならなかった。
それ以上に早く果ててしまいたいという気持ちがあった。

「ベルンっ、ぁっ」

決して顔が離れる事はなく、見つめられる瞳にさえ快感を感じてしまい達した。
開いた口から浅く呼吸をして、目は閉じる事なくベルンを見続けた。

「私に屈服すればいい」
「……絶対嫌だ」

予想していた答えだったのかベルンの表情は変わらなかった。
でも直後に目を見開いて驚く事になる。
それを予想すると僅かに笑みが浮かんだ。

「屈服するのはそっちの方だぜ」

小さく呟くように言うと頭を浮かせてキスをした。
目を閉じる事もしない。だからベルンの驚く様も見れた。

痛みも快楽も屈服させる前段階。



H21.9.13

痛みも快楽も屈服させる前段階
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