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私は一人きりの部屋で、目の前にないカケラを思い浮かべる。
退屈で仕方ない時はそうする。
思考を止めてしまえば消えてしまうから。
でも今は何も考えたくなくてカケラを思い描いた。
それは私には観測できてもその中には入れない終わりと始まりのカケラは。
最も私は傍観する事しかできないのだからどのカケラでも同じ。
どのカケラにも私は入れない。
「退屈ね」
床に座りこんで膝を抱える。そして瞳を閉じた。
まるで泣いているかのよう。
でもただ空虚なだけ。
この部屋のように何もない。
思い描いたカケラの中では惨劇を脱した少女と少年がいた。
少年は繰り返した世界で学んだ。
学んだというのは少し違うかもしれない。
感じたというのが適切か。
最後のチャンスを独りで戦わなければいけない少女は少年を見て勇気を出した。
そして終わりと始まりのカケラとなった。
だから私はもうあの世界を見る必要もなくなり、退屈を紛らわす旅に出た。
なのにどんな世界を見てもまた退屈はやってくる。
そして紛らわすために思い浮かべるのは終わったカケラ。
何度考えようとも不可解。何も得られないのにどうして思い出してしまうのだろう。
あの少年は今見ている世界の青年にどこか似ている気がする。
諦めの悪い所や打たれ弱そうなのに突っ込んで行ってしまう。
そんな事まで考えてしまう。
「なんだ、ここ」
考えてしまったのがいけなかったか。
招いた覚えがない客がこの空間に入りこんでいた。
「なに尻尾しょんぼりさせてるんだよ」
私は背を向けて何も答えない。
それでも彼は近づいてくる。いや、期待してるのかもしれない。近づいてくるのを。
「っ……ちょっと!重いわよ」
背に思いきり重みをかけられて前のめりになり倒れそうになってしまった。
倒れる寸前で軽くなり倒れずには済む。
「茶ぐらい出してくれないのかと思ってな」
「品切れよ。残念ね。帰りなさい」
背に温かみを感じ、どうやら彼は私の背中に背を合わせているようだった。
「呼んだんじゃないのかよ」
「貴方が勝手に来ただけよ」
嘘をついた。
実際呼んだわけではない。
私の思考に寄せられてしまっただけ。この男も私の事を考えていたからこそその思考が引き寄せられてしまったと考えるのが妥当だった。
「退屈を嫌うベルンカステル卿の事だ。いたいけな青年を弄ぼうとしてたんだろ」
「そうね。じゃあまずは服なんて消してしまって狗にでもなってもらおうかしら」
「何プレイをするつもりだ」
わざとらしくはじまった軽口にあわせる。
私が何も言わないでいると背が揺らされた。
「こんなところじゃ退屈だろ。俺だって退屈だ」
「私といて退屈なんて言葉を口にするとはいい度胸ね」
揺れていた背が止まり沈黙。
大きな背から感じる温かみを私は知らない。あの少年の手もこんなふうに温かったのだろうか。
「つまらねぇな」
「っ!?」
寄り掛かりかけていたせいか合わさっていた背がなくなり、後ろに倒れそうになる。
完全に寄り掛かっていたわけではなかったから倒れずには済んだはずなのに、肩を彼の手が掴んで無理矢理仰向けに倒された。
「こっちを見てないんだからつまらねぇよ」
彼の肩足の上に身体を乗せられて、顔を見上げる形になる。
「見てないわ。私が見るのはこの退屈を紛らわす物だけ」
貴方なんて見ていないと言おうとしたのに口にできなかった。
その隙に見上げていた顔が近づいた。
「いっそ監禁ぐらいしてくれた方が楽しめるぜ?」
「する方ではなくされたいなんて変態ね」
「お前限定ならそれでもいいかもな」
至近距離で交わされる会話。息が漏れて唇にかかる。まるでしてほしければせがんでみろとでもいいたげな挑発的な態度。
「その言葉後悔する事になるわよ」
自然と笑みが漏れてくすくすと笑ってしまう。
この男が落ちる顔が見たい。
この男が壊れる様を見たい。
歪んで、けれど正常な感情に満たされる。
あんなにも空虚なものが満たされる。
この世界が終わらなければいい。
串刺しにしてでも留めてあげる。
貴方に真実なんて思い出せないんだから。
「見せてみなさい」
「は?」
「私を楽しませてみなさい」
それでも終わらせてみなさい。
貴方が終わりと始まりをつくるんだから。
そのカケラで私を満たしてみなさい。
今も私が捕われるあの終わりを越えて。
H21.9.17
OVER THE END
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