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「……」
「……」

ただじっと訴えかけるようにベルンを見る。
佇む俺にちらりと目をやるだけで目を伏せて紅茶を飲む。

「何なんだよ」
「猫耳ね」
「この頭にくっついてるものの事を聞いてるわけじゃねぇよ!」

頭のついている猫の耳を軽くつまんで引っ張る。
取れるわけがなかった。

「犬耳だけだと退屈でしょう?」
「何回もやれば新鮮味がなくなってマンネリにもなるだろうよ。だがな、俺はあんたの退屈しのぎの道具じゃねぇ」

かちゃんと音を立ててカップが受け皿に置かれた。
伏せた目をこちらに向けられドキリとして、何を言われるのかつい待ってしまう。

「玩具よ」
「同じだろーが!」

期待した俺が馬鹿だった。

「普通尻尾があるんだから猫耳つけるのはそっちだろ」
「芸がないわね」
「それに男に猫耳つけて何が楽しいんだよ」
「今の光景はとても楽しいわ」

無言のままでも困るがこうも返されてしまうと何かしてやりたくなる。
何かベルンが驚く事ができないものかと思案する。
その余裕ある態度を崩してやりたい。

「貴方が考えそうな事なんてわかるわ。犬耳の時のように私に襲いかかろうとしても無駄よ」

それこそ芸がない。
一度やった事をまたやろうものなら冷ややかな目で見られるのが目に見えている。
驚かす以前の問題だ。
ベルンがまた一口紅茶を飲んだ。

「なに?」

目を伏せていた内にベルンの足元までいき膝をついた。
そんな俺を相変わらず感情の見えない瞳で見てくる。

「っ!?」

俺は何も言わずに猫が膝に乗るようにベルンの膝に頭を乗せた。さすがに身体は無理だからな。
僅かに頬をすりよらせるとベルンが言葉を詰まらせているのがわかる。

「猫だからな。気まぐれにこうして甘えたくなるんだよ」

ベルンの膝は居心地がよくて、最初は驚かせるのが目的のはずがずっとこうしていたくなる気持ちになった。

「……ベルン?」

しばらくそうしていたが、何も反応がなさすぎてどうしたのか顔を上げたと同時にベルンの手が頭に触れた。

「馬鹿ね」
「今更知ったのかよ」

ベルンはそう言いながらも薄く笑っているように感じた。
何より頭を撫でる小さな手はベルンの感情を伝えるように撫でられていたのは気のせいではないと思いたい。
手の持ち主は無意識だろうが。

「あんたが猫になったら撫でてやるよ」

そう言いながら俺は再び膝に顔を埋め、目を伏せた。

彼女のためにやってるんじゃない。
俺が彼女を知りたいからやってるんだ。
崩して見せる彼女を垣間見たくて。



H22.2.22

崩して見せる彼女を垣間見たくて
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