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「今日は貴方の誕生日よ」
「は?わっ!なんだ!?」

ベルンの唐突な発言のあとにあたりが白い煙に包まれた。
覚えのある展開に真っ先に頭を確認する。

「また変な耳がある!?ていうかおかしいだろ!耳4つになってるし!」
「いいのよ。飾りみたいなものだから」

いつの間に距離を詰めていたのかベルンが目の前に佇み見上げていた。
頭を確認した手には毛と生暖かい感触がした。微かにぴくりと動いて見なくてもまた犬耳をつけられたのだとわかった。

「しっかり尻尾まであるぜ」

後ろを確認すると茶色い尻尾が見えた。

「どういうつもりだ」
「誕生日でしょう?」
「この世界に日にちも何もあるか!」

くすくすと笑いながらベルンは後ろに回っていく。

「毎日同じ日は退屈だわ。だから楽しい日にしてあげたのに」
「尻尾を触るな!」

尻尾に軽く触れるベルンの手から逃れるため身体の向きを慌てて変えた。
それでもベルンは後ろに回ろうと足を踏み出し、俺は回り込まれないように同じ速度で身体の向きを回転させていく。

「俺の誕生日なのに俺が全く得してないじゃねぇか、ベルンさんよ〜」

余裕を見せるように笑いながら言うとベルンは見透かすように笑みを浮かべる。

「誕生日だから得をしなきゃいけないなんて決まりないわ」
「俺の誕生日にする必要がない」
「面白いからいいのよ。それに前に祝ってほしがったじゃない」
「それは……わっ」

首を何かで強く引かれて体勢を崩し前のめりになった。
ベルンの額に自分の額がつき、すぐにベルンの手元に鎖が握られてる事に気がついた。

「プレゼントは私の飼い犬になることよ。嬉しいでしょう?」
「可愛がってくれる飼い主ならまだしもいたぶるだけの飼い主なんてごめんだ、ねっ……っ」

また強く引かれて顔から床に這いつくばった。すぐ前にベルンの靴と首から上に繋がれている鎖が視界に入る。

「可愛がり方なんて人それぞれよ」
「これがお前の可愛がり方だとでも?」

強く引かれて息苦しさと床に勢いよく倒れた際の痛みがあったが、決して顔を歪めたりはしない。

「つまらないわね」
「あいにくこんな趣味はないもんでな」

ベルンが屈みこみ、頭にある犬耳に触れた。指先で軽く触れられくすぐったさを感じる。

「本当よくわからねぇ……なっ」
「っ……」

起き上がりながらベルンが手にしていた鎖を掴み、引くとベルンが反対に床に這いつくばった。
座りつつ俯せで倒れたままのベルンを見下ろす。
自分の首を手で確認すると革の首輪がつけられそこから鎖が繋がれていた。

「わん」
「飼い犬のくせに生意気ね」

挑発するように鳴き真似をするとまた強く鎖を引かれたが倒れずに座ったまま。
何度も引くが倒れないことに業を煮やしたのかベルンが顔を上げて睨んできた。

「いい眺めだな」
「こちらは最悪よ」

そう言いながらベルンはゆっくりと立ち上がる。
俺は座ったまま立ち上がるベルンを見つめた。

「誕生日関係ないだろ、これ」
「いいのよ」

そう言いながら無表情で伸ばされた手が頭を撫でた。
撫でやすいように少し前屈みになると自然と顔が下を向いた。

撫でるまでに何分かけてるんだかと思ったが口にはしない。
言えばベルンはやめてしまうだろうから。
撫でられる感触に身を委ねて目を閉じた。



H24.7.15

撫でられる感触に身を委ねて目を閉じた
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