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屋敷のエントランスの階段に一人で座り込んでいた。

『赤を奪ったらどうなるかしら?』

今はいない奴の言葉と笑い声が聞こえてくるようだった。
静寂は心地いい。
誰もいないゲーム盤を眺めていられる。動かないゲーム盤を。

「まだこんなところにいたのね」

突然前に現れた影にすぐに色がつく。
冷ややかな眼差しで見下ろすベルンカステルだった。

「ここがゲーム盤だからな」
「あんたに居場所なんてないから仕方ないわね」

ベルンの言葉に憤るも返す言葉なんてなく視線を逸らす。
逸らすのを許さないように顎に指が触れ顔を上げさせられる。
間近に迫るベルンは蔑みながらも楽しんでいるかのように笑みを浮かべていた。光のない瞳に気味の悪さを感じる。

「いいのよ、それで。あんたは黒き真実であり嘘の真実。ゲーム盤をかき回せばいいの。ぐちゃぐちゃにね」
「……俺がお前の駒でなければ嫌がりそうだな」

間近に迫る顔が更に迫り鼻先が触れ、唇から息がかかる。

「推理をぶち壊す駒なんていたらぶち壊してあげるわ」
「自分の駒ならいいのか」
「いいわ。私は知っている。あんたが結局は何の意味もないってことを。真実じゃないから楽しいのよ」

笑みを型どる唇が全て触れそうになったところで離れた。
背中に軽い痛みを感じる。天井を見上げている事で自分がベルンに倒されたのだとわかった。
階段の段差は身体を横たえるには最悪だった。

「また赤い水を降らせないの?」

くすくすという笑い声と共に身体に微かな感触がした。
ベルンが階段に膝をつき、俺の上半身をまさぐる。弄ぶように。

「ずっと、ずっと考えているのかしら?無駄な事を。駒に存在意義なんてないのよ」
「始まるまで暇だから俺で暇潰しか」

弄遊ばれるまま呟くと玩具で遊ぶような楽しそうな笑いが聞こえる。無邪気さなど皆無な笑い。
考えているんだろうか。俺が何のためにいるのか。赤く染めるだけ。犯人は俺だ。だが赤く染めてもその赤を奪われてしまう。

「全て終わったらハラワタを抉り出して真っ赤にしてあげるから安心しなさい」

赤は見えるからだめなのか。認識できるからだめなのか。
まさぐる片手を取り、上に引き上げる。軽く小さい身体は俺の上に全て収まる。

「何をするの?」
「黒、って言っただろ」

引き上げた手首を掴んだまま、更に引き上げて顔を寄せる。
いつもの無表情で光のない瞳が凝視してくる。

「そうよ」
「見えなくなればいい、真実なんて。黒き真実で塗り潰して見えなくなればいい」

先程とは逆でこちらから顔を寄せ、唇が触れそうになる。
そのまま触れた。
視界が真っ暗になる。望む黒に。
触れた唇に存在意義を見いだした。



H24.6.21

黒を与える
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