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久々に部活で大負けした。
部活をする前にみんなで罰ゲームを内容を書いた紙が入れられている箱に思いっきり手を突っ込んだ。

「おじさん的にはアレがオススメなんだけどな〜」
「はぅっ、アレって何かな?かな?」

箱を持ちながらニヤニヤする魅音に興奮するレナ。
何を書いたか予想がつかないのが怖い。自分が引くかもしれないのに無茶な事を書くのがこの部活メンバーだ。
しかし私は何よりも自分が書いたものを引かない事を願った。

「梨花、往生際が悪いでございましてよ」
「運だ、梨花ちゃん!迷うよりも直感でいけ!」

箱の中をまさぐり続ける私にそんな言葉をかけてくる沙都子と圭一。
私はみーとだけ鳴いてちらりと圭一を見た。
私の視線に気付いたのか圭一をグッと握り拳を握って見せる。
私がレナにお持ち帰りされそうになったら全力で止めてもらおう。

「えい!なのです」

一気に手を引き抜いてみんなよりも後ろに後ずさる。
二つに折られた紙を恐る恐る広げてみる。

「っ!?」
「なになに?その反応はなかなかイイんじゃない?」

魅音が言う“イイ”は私にとっては悪い意味。
紙を魅音にあっさり奪われてしまう。

「なっ!?」

ニヤニヤ顔が驚愕にかわった。

「どうしましたの?」
「もったいつけるなよ」

そう言って圭一が魅音から紙を取る。止めようとしたが遅かった。魅音も取られてからとられまいとしたようだが時すでに遅し。というか反応が遅すぎる。

「圭一くん、何て書いてあるのかな?」
「えーっと……“一位の家で裸エプロンで料理を作る”」

一瞬時が止まった。
今日の一位とビリが女の子なら問題は……多分ない。
しかし今日の一位は……。

「圭一くんのお家で梨花ちゃんが裸で料理〜!?」
「ふ、不潔ですわ!」
「違うのです!エプロンが抜けてるのです!」

それでも危ない。
圭一の顔を見る事ができない。
よりにもよって自分が書いた罰ゲームが当たってしまうなんて。魅音が引き当てて圭一相手なら面白い反応が見れるかもしれないと思った私が馬鹿だった。

「ボクが書いた罰ゲームなので無効なのです。もう一度引くのですよ」

このまま流してしまえと箱に手を伸ばすが魅音が箱を引っ込めた。

「だ、だだだだだめだよ、梨花ちゃん!ば、ばばばばばばば罰ゲームはやらないと!」

あからさまに動揺しずぎな魅音。前に圭一とデートさせた時の仕返しのつもりなのか。

「い、いいいいいいくら圭ちゃんでも梨花ちゃん相手に手は出さないだろうし!」
「でもっ……」

行き場のなくなった手をもう一度伸ばして何としても違う罰ゲームにしようと試みる。
しかしその手は掴まれていた。

「よし!じゃあ俺が梨花ちゃんをお持ち帰りだ!」
「え?ちょっと、圭一!?」

手を掴んだ主、圭一がそのまま私を引っ張り出した。
ちゃんと私の鞄も忘れずに持ってくれる。

「圭ちゃん!?」
「じゃあな〜!」

そのまま私は圭一の家へ行く事になった。


「助かったよ。今日ちょうど親父も母さんも東京の方行くって朝言われてさ」

ジュースが注がれたコップを差し出され、圭一を見上げる。

「それで、料理を作ればいいのですか?」
「できれば明日の朝昼付きだと助かる」

先程冷蔵庫を見せてもらったらそれぐらいは作れそうだった。
断る理由もないし作ってもいい。しかし問題が一つあった。

「料理中は台所に来ないで」
「は?何で?」
「なっ……何でって」

この男は私が何故ここにうるか覚えていないのだろうか。
私が黙っていると圭一が気付いたのか安心させるように頭を撫でてきた。

「大丈夫だって。裸エプロンはしなくていいから。魅音達にはちゃんと梨花ちゃんが裸エプロンをやり遂げたって言うしさ」

それはそれで恥ずかしいものもあるが罰ゲームをやらなかった事が知れたら何を言われるかわからない。

「それにエプロンは母さんのしかないから梨花ちゃんには大きいしな」

その言葉で教室での魅音の言葉を思い出した。
“さすがに梨花ちゃん相手に手を出さないだろうし”
圭一のお母さんのエプロンが合えば違うのだろうか。
って、何考えてるのよ。でも……。

「圭一、エプロンを貸して欲しいのです」


部屋の中は暖かいからいいけどやっぱりすーすーする。
やっぱり借りたエプロンは少し大きかった。引きずるほどではなかったからまだよかったけど。
さすがにいきなり後ろに立たれてはたまらないから下着だけは履いた。下着以外は脱いでエプロン一枚。
一部の人達はこの格好がいいらしいけどさっぱり理解ができない。恥ずかしいだけじゃない。
なのに自らこんな格好をしてしまったのは……。

「ち、違うわよ。……違わないけど」

料理をしながら呟く。
沙都子と一緒に料理をしてた時とは違う気持ち。羽入に料理を教えてもらった時とも違う気持ち。
これが好きな人に対する気持ちなのだろうか。
ただ楽しいとか嬉しいだけじゃなくて、自分でもわからないものが溢れてしまいそうでそして不安になる。
こんな格好をしてまでどうしたいのだろう。圭一に私を子供というだけで外してほしくない。
2、3年もすれば胸も大きくなるはず。見た目もかわる。
必死に背伸びしても圭一には届かない。

「料理なら自信があるのに」

味は羽入仕込みで素朴だが自信はある。
せめて自信のあるものだけでもと料理に集中する事にした。



H21.5.28

背伸びをしても届かない
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