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俺の家で女の子が料理をしている。それだけで何だかそわそわしてしまう。
梨花ちゃんいわくはじめてではないから何がどこにあるかだいたいわかるという事なので俺は自分の部屋で待機していた。

「見たい。が、さすがにそれはまずい」

梨花ちゃんは罰ゲームで一位である俺の家で裸エプロンで料理をする事になった。
どうせ俺しかいないのだからわざわざやる事はないと持ち掛けたが罰ゲームはやるべきだと梨花ちゃん自ら裸エプロンを……。

「気になる……でも」

散々悩んだあげく俺は階下に降りる事にした。
部屋を出た時からいい匂いが食欲をそそらせる。
梨花ちゃんの料理の腕がいいのは弁当で証明済みだから尚更楽しみで仕方がない。
そっとリビングの扉を開けると鼻歌が聞こえてきた。
裸エプロンで料理をしながら鼻歌をうたう梨花ちゃん。
なんというシチュエーション!!

「よし、これはもうテーブルに……圭一!?」

出来上がった料理をテーブルに運んできた梨花ちゃんにあっさりと見つかってしまった。
驚いても皿は落とさないとは、って、そんな関心してる場合じゃない。

「な、何してるのよ!」
「いや、その、気になって」

皿をテーブルに置くと屈んでテーブルの陰に隠れる。
顔だけ覗かせると顔が赤いようだった。

「ま、まぁ前だけなら大丈夫。うん、大丈夫」

ぼそぼそと何かを言うと梨花ちゃんは再び立ち上。
出て行ったほうがいいはずなのに何故か動けない。
少し大きなエプロンを纏った梨花ちゃんはいつもとは違う雰囲気だと思わせた。
二の腕から剥き出しになっている白い肌が……だから!早く出ていかないと!

「ごめん!できたら呼んでくれ」

みとれていた。
一見大きいワンピースを着ているようにしか見えないのに、みとれてしまった。
何故動けなかったかを理解してしまうと顔が熱くなるのも時間の問題で慌てて出ていこうとする。

「待って!……なのです」

後ろから腰にしがみつかれて制止する。
細い腕と小さな身体が俺を引き止める。

「梨花ちゃん……?」
「……圭一になら見られて平気なのですよ」

か細く囁くように言われたのにも関わらずはっきりと聞こえてしまった。
意味を理解する前に心臓が先に反応して脈打つのがわかる。

「だ、駄目だ。梨花ちゃん。何かわからないけど駄目だ」
「え?」

ぴくっとしがみつく腕が震えて、どこか傷つけてしまったような声が聞こえる。

「どうしたらいいのか、わからなくて」

それが正直な気持ちだった。きっと顔は真っ赤だろう。
エプロン越しに伝わる梨花ちゃんの体温が心地よくも苦しい。
でもどうしたらいいのかわからない。
だから、しがみついてくれている腕に両手でそっと触れた。

「圭一の手、熱い」
「梨花ちゃんもな」

ぎゅっと掴むと弱まっていたしがみつく腕の力も強くなった。


「今日は悪かったな。明日の朝昼も用意させちゃったし」
「別にいいのですよ。楽しかったのです」

あれから夕ご飯を一緒に食べ、梨花ちゃんを送っていた。
もう家まではすぐそこで、古手神社の階段を少しゆっくりのぼってみる。
先に歩く梨花ちゃんが少し振り返って微笑んだ。

「裸エプロンも貴重な体験だったし」

先程の子供の笑みから少し大人びた笑みを見せる。

「残念ながら俺はあまり見れなかったけどな」
「も、もう少ししたら見せてあげるわよ」
「へ?」

残りの階段を梨花ちゃんは一気に駆け登ってしまう。
それを追うように俺も一気に駆け登った。

「……圭一が駄目じゃなくなったら」

上まで辿りつくと梨花ちゃんは背中を向けたままそう言った。その意味がわかり、意地悪く笑う。少しだけこちらを見ている梨花ちゃんに見えるように。

「その時は下着なしで」
「っ!?」

俺達はまだ進んでいない。
もう少し。その少しで気持ちを伝える術が見つかるはず。
この気持ちを伝えるにはまだ少しかかる。
だからまだ駄目なんだ。
好きな相手への距離を縮めている最中だから。



H21.5.29

好きな相手への距離を縮めている最中だから
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