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普通に過ごせているのが不思議だった。

夕飯の買い物袋を持ちながら帰路を歩く。
ついこの間の事なのにこんなにも穏やかな空がおかしなぐらいだ。
これが普通なのに。力をなくした僕にはもう何も感じる事はできない。
世話になっている教会への細道へ入ってどきりとした。
あの子が教会の前で笑っていて、あの子の前には見覚えのある後ろ姿があった。
あの双子だ。でもどちらなのかがわからない。
顔はそっくりだけど雰囲気は違う。だけど後ろ姿からではさすがにわからない。

「あ、瀬名!おかえりなさい!」

僕が踏み出せずにいるとアーシェが気付いてこちらに手を振ってくれる。
それに笑顔で答えたいけどこちらを振り向く顔に視線がいってしまい無理だった。

「さっき言っていた恋人か?」
「うん!そうなの」

こちらに視線を向けてアーシェにそう聞いている。
鋭い視線を向けられたけど殺意はなく、雰囲気からレニだとわかった。

「そうか」

レニはアーシェの頭を軽く撫でる。愛しそうな瞳で。
そんな表情をするなら何故彼女をあの時行かせてしまったのだろう。

「おい」
「えっ?」

こちらに歩いてくるレニに僅かに後ずさりしてしまう。

「あいつが帰りが遅いと心配していた。探しにいきそうなのを引き止めただけだ」
「……どうしてそんな事を僕に言うの?」
「お前が不安そうにしているからだ。それじゃあな」

最後の言葉はアーシェに向けられていた。
その言葉にアーシェはお礼を言った。その手には青い薔薇が一輪。彼女が好きな花だ。
最も好きだった記憶があるかはわからないけど。

「お前にもやる」
「いらないよ」

青い薔薇を一輪僕に差し出すレニ。
受け取らない僕に更に突き出してくる。

「あいつが幸せならそれでいい」

あの子には聞こえない大きさで呟かれた言葉。
どうして君の手で幸せにしてあげなかったのかと聞きたかった。

「どうして……」

でもただそれだけしか言えなかった。

「あいつが選んだんだ。相入れないお前達がただの人間になった。この薔薇が好きなあいつらしい」

最後だけ優しさを感じた。この青い薔薇を好きだったあの子を見てきた彼はどんな気持ちであの子にこの薔薇を渡したのか。
ただ愛してるだけなのかもしれない。悪魔がこんなにも一途に愛するなど天使達は知りもしないだろう。

「お礼は言わないよ」
「いらない。お前には他にやるべき事があるだろう」

青い薔薇を受け取って強がるように笑んだ。
相変わらずの鋭い眼差しであの子の方へ促される。

そして彼は行ってしまった。
青い薔薇二輪を僕らに渡して。

「瀬名、知ってる人だったの?」

アーシェがぱたぱたと歩いてやってくる。

「どうだったかな」

どうして僕には記憶があるのだろうとたまに思う事がある。
不幸にしてしまった彼女に償うためなのか。
あの時にやはり突き放すべきだったと後悔するためなのか。
どれも違う。

「青い薔薇なんてはじめて見たけど綺麗」
「そうだね」

レニからもらった花を彼女の髪につける。
少し戸惑いながらも彼女は笑った。

青い薔薇が好きだった事を知っている僕が、彼女が作ってくれた奇跡の中で彼女の幸せを一緒に見ていくためなんだ。



H21.8.3

彼女が作ってくれた奇跡の中で
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