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「ごめん、梨花ちゃん」

誰もいなくなった教室で俺は梨花ちゃんに謝っていた。
窓際に佇む梨花ちゃんは何も言わずに俺から目を逸らしている。

「俺が梨花ちゃんに猫耳が生えればいいなんて思ったばっかりに!」

猫耳と尻尾が生えた梨花ちゃんに対してついには土下座をして謝る。
朝から梨花ちゃんの様子はおかしかった。
どこかそわそわして何かいいたげにこちらを見る。
放課後に話したい事があると言われ、猫耳と尻尾が生えた事を打ち明けられた。
そして今に至る。

「圭一が願ったからなったかはわからないのですし、土下座はやめてほしいのです」
「梨花ちゃん……」

額に床につけていたが梨花ちゃんの言葉に顔を上げた。

「でもどうしてそんな事を思ったのかは知りたいわ」

怒ってないはずなんてなかった。
笑顔だけど何やら怖い雰囲気がかもし出されている気がする。

「それは……とにかく!治す事を考えよう!やっぱり監督に言ったほうがいいのか?」
「入江はお医者さんですがこれは病気ではない気がするので言っても仕方ないのです」
「そうだよな」

何か手はないかと顔を俯かせて考える。
しかし医者が頼れないならどこに行けばいいんだ?

「圭一」

陰ったかと思えばしゃがみこんだ梨花ちゃんが顔を覗きこんできていた。

「うわっ」

それに驚いて体勢を崩してしまい後ろに倒れそうになった。

「そんなに驚くなんて酷いのですよ」
「ご、ごめん」

後ろめたい事があると普段はあまり反応しない事にも過剰に反応してしまう。
その様子を見て気付いたのか梨花ちゃんの雰囲気が変わった。

「やっぱり何かあるのね」
「何も!」
「多分圭一が思った事が関係してるんだと思うわ」
「う……」

立ち上がった梨花ちゃんが俺を見下ろしながら一歩踏み出す。
唾を飲み込んで言う覚悟を決めるしかなかった。

「梨花ちゃんが頑張るからさ、甘えてくれてもいいのになって……思って」
「え?」
「普段から“み〜☆”とか言ってるから猫っぽいなって言うのもあって猫みたいに甘えてくれたらいいなって思ったんだよ!」

まさかそれが翌日に半分実現されるとは思うはずがない。
猫耳と尻尾はついたが肝心の甘える部分はない。

「別に普通なのですよ」

いつもの声のトーンよりは低く、少し戸惑っているようにも見える。
羽入がいなくなって心配をかけないように頑張ると梨花ちゃんは言った。羽入はいつでも見ていてくれてるんだからと。
だけどたまには肩の力を抜いてもいいと思うんだ。

「ここまで言ったなら最後までやらせてもらう!」
「な、なにっ?」

勢い立ち上がり普段の目線に戻る。
今度はこちらが一歩踏み出す。すると梨花ちゃんは後ずさった。
それを数回繰り返すとすぐに窓に梨花ちゃんの背中がぶつかる。

「圭一!もうわかったから」

窓を開けようとするが鍵が閉まっていて開かない。
逃げ場がなく、梨花ちゃんは下へとずり落ちていった。

「梨花ちゃん」

屈んで膝をつくと梨花ちゃんの身体が強張る。
その身体を抱きしめた。

「っ……!」

猫耳から髪にかけて繰り返し撫でる。
言葉にならないが僅かな声と息が漏れ聞こえた。

「け……いち」

しばらくそうしていると途切れ途切れに呼ぶ声が聞こえ、小さな両手が背中に回されシャツを握りしめた。

「ごめんな」

突然の異常に不安だっただろう。
それはどういう理由かはわからないが多分俺のせいで申し訳なくも、それを打ち明けてくれた事が嬉しく思った。

「……もう大丈夫なのです」
「まだ俺が駄目だ」

本当はずっとこうやって抱きしめたかったし、抱きしめてほしかったのかもしれない。
胸の鼓動はうるさいしそれを聞かれてるかもしれないと思うと恥ずかしかったけど離したくなかった。

「圭一は甘えたさんなのです」
「そうかもな」

照れ隠しで言われた言葉でもこうする事を望んでくれたように感じた。
身体を離し、見上げてくる梨花ちゃんを見つめる。
ほんのり赤らんだ頬がかわいらしかった。

「けい……っ」

軽く。本当に一瞬だけ唇に唇を寄せた。
一瞬だけだったのに梨花ちゃんの顔は真っ赤で、それを隠すように胸に飛び込んでくる。

「圭一なんて知らないのです!」

今は離れように離れない梨花ちゃんの身体をもう一度抱きしめ直し、猫耳を撫でた。
きっかけは何であれ可愛いのにかわりはない。



H21.9.1

きっかけは何であれ可愛いのにかわりはない
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