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嘘つき同士。
恐怖で見張る瞳がオレに向けられていた。


「大丈夫……陽刀兄しばらく戻ってこないから……美咲がどんな姿になっても、声上げても大丈夫」

覆いかぶさる身体は強ばり小刻みに顔を横に振る。嫌々をしている仕草も可愛い。

「ああ、この体勢だと腕痛いよね。でもごめんね……腕の縄ほどいたら美咲暴れるでしょ?」

両足も縛り両腕は口に噛ませた猿轡が取れないよう後ろで縛っていた。仰向けでオレが覆い被さっていては身動きもできないし痛いだろう。
美咲は今度は何かを伝えるように首を横に振った。

「暴れない、ってこと?駄目だよ。もし暴れて逃げようとしたらオレ……美咲に何するかわからないから」

起き上がり強ばる美咲の身体を起こして腿を跨ぐように膝立ちにさせた。

「暴れられなくなるくらいになったらほどいてあげるよ。でないとこのまますることになるし」
「っ……んー」

身体を仰け反らせて離れようとする。目を閉じて一生懸命力を込めてるみたいだけど離れられるわけがない。
背に片手を回して支えながらもう片方の手で膝から擦るように上げていく。

「ん……」

スカートを捲り足の付け根まで這わせ下着を少しだけ下ろすと懇願しているように目に涙を溜めて顔を横に振った。
まるで嫌々と言いながらねだられているような気分になる。

「もう美咲はオレと同じ嘘つきなんだよ……乱は戻ってこない。助けてもらえないよ……」

首筋に唇を寄せて息を吹き掛けるように言う。少しして身体から力が抜けた。
美咲は乱を助けようとしていた。乱も美咲を助けにきた。でも美咲が嘘つきだから乱には伝わらなかった。伝える口はオレに塞がられていたから。
オレを好きなんて嘘でも言わなければ良かったのに。凄く嬉しくて渡したくなくなった。

「美咲……好きだよ……」

虚ろな瞳でオレを映している美咲にキスをする。猿轡に阻まれて口内には舌は入れられず唇を軽く嘗めた。


「あ、美咲練習試合の時間だよね?」

シャツのボタンを留めながらタオルを探す。洗面器にお湯を入れてタオルを浸けて絞り床に横たわる美咲に差し出す。

「オレが拭こうか」

微動だにしない美咲に言いながら足を拭こうとすると片手で制された。

「自分で拭く?」

美咲は身体を起こしても答えずにタオルを取り身体を拭き出した。その様子を見つめていても特に何も言わない。
周りを見始め何かを探している様子でもしかしたらこれかと差し出す。

「はい、下着」

勢いよく取られてしばし見つめられると立ち上がり隅で下着をつけ、穿いていた。
もう全部見たししたのだから今更な気がするけど恥ずかしがる美咲も可愛い。

「……夜刀さん」
「なに?」

最中以外では久しぶりに聞く声、と言っても数時間だけど。

「誰にも……言わないで下さい」
「言わないでほしいなら言わないよ。特に乱には」

俯いていた美咲が顔を上げると泣きそうな顔をしていた。
近寄ると怖がるように後ずさる。でも後ろはすぐに壁だった。

「優しくしたつもりだけど……痛かったよね?次からはもっと……とっ」

軽く押されてよろけると勢いよく扉が開けられ美咲は走って行ってしまった。

「可愛かったなぁ……もっとずっと一緒にいたいよ……美咲」

一人きりの小屋で出ていってしまった彼女を思い浮かべながら呟いた。


そして合宿は終了しオレ達は負け、OGAを島の外ではできないままとなった。
やっぱり乱は強い。美咲の指揮官能力も高くて美咲がいたら勝てたのかなとぼんやり考えてしまった。美咲は合宿が終わってからも変わらず輝白学園のOGA部でマネージャーをして今は全国大会へ向けて練習中だろう。

「陽刀兄」

オレ達は合宿が終わって普段通っている高校へと戻ってきた。こちらの生活のために用意されたマンションへ帰宅途中の電車内で隣に座る陽刀兄を呼ぶ。

「美咲にさ、会いに行ったら駄目かな」
「貴方はなぜあんな裏切りの家の者に執着するのですか」

白雲と名を変えてあの島から逃げた者の末裔だというのは途中でわかった。高い指揮官能力に巫女の力を垣間見たから。
負けたことに陽刀兄は憤るもどこか納得しているようにも見えた。だから聞いてみる。

「美咲に戻ってきてもらおうよ」
「貴方は何を……!」

驚き立ち上がるもここが公共の場だからか陽刀兄は座り直した。車両にはオレ達以外誰もいない。だから話したんだけどそれでも陽刀兄は気にするのだろう。

「彼女を利用することになりますよ」
「利用……なのかな」
「そうでしょう。彼女は輝白にいたがっているように思います」
「本当にそうかな」

好きな人のそばにいてもう振り向いてもらえないのに本当にそこにいたいのかな。聞いたら美咲は答えてくれるだろうか。
オレは聞いたら美咲を離せるだろうか。きっとどちらにしても離さないだろう。

「わかりました。彼女の指揮官能力は確かにこちらのものにできれば我が一族に利益をもたらすでしょう。輝白に向かいますよ」
「今から?」

今から向かうとは意外だった。驚いて隣に顔を向けると陽刀兄は少し困ったように笑った。

「会いたいのでしょう?」
「……うん」
「なら何も問題はありません」
「そうだね……」

正面を向いた陽刀兄に促されるようにオレも正面を見た。
窓からは夕陽に染まった空が見える。流れる雲が彼女を思い立たせた。
絶対に離さない。もう美咲がいない世界なんて考えられない。



H26.4.7

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