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奇厳島での一件が終わり変わらない日々。いつものように島外ではOGAはできないまま日常を過ごしていく。


「……なんだろう」

学校からの帰り道を歩きながら首を傾げる。変わらないはずなのに違う。この先島外で都雲家がOGAをできるかもしれないと思えたからなのか。

「あ……」

人混みの中で視界に真っ先に入り込んだ。考えるよりも早く早足になり追う。
人にぶつかるのも構わずに追いかける。

「つーかまえた」

目的のものである子供に辿り着き抱き上げる。後ろ向きで顔は見えず顔を見るため片腕で抱えた。

「やっぱり美咲だ」

奇厳島で別れてから会っていない白雲美咲。でもこんなに小さくはなかった。妹もいないし親戚もいないはず。
オレが名前を口にすると強張った体が若干和らぎ恐る恐る聞かれた。

「わたしを知ってるんですか?」


「夜刀、今日も早く帰ってきていたんですか?」
「あ、陽刀兄おかえり〜」

帰宅した陽刀兄が不思議そうにオレを見ていた。今まで遅くなることが多かったからだろう。

「間食して夕飯食べられないと言わないで下さいよ」
「わかってる。オレ育ち盛りだから大丈夫。勉強するとお腹減るよね」

陽刀兄が驚きと何かが混ざったような表情をしたのを見て笑う。
何も言えないでいる陽刀兄を横目に紅茶を入れたカップとクッキーをトレーに乗せて階段を上がり自分の部屋へ戻った。

「美咲、お待たせ」

テレビを見ていた小さな美咲に話しかける。
あの日捕まえた美咲はそのまま家に連れ帰った。記憶喪失で名前以外はわからない。似ているだけかと思ったけれど美咲は白雲を名乗った。連れ帰りOGAの試合映像を見せ食い入る姿を見たら確信した。この子はあの白雲美咲なのだと。

「面白い?」
「はい」

返事をしてすぐにテレビに顔を向けてしまう。
はじめは抵抗はされたけれど行くところがないという現実にオレのところに来るしかなかった。陽刀兄に言うか迷ったけど少し黙っておくことにした。
都雲に白雲の血を取り入れられる。でも陽刀兄はまだ子供だからと彼女を自由にしてしまうかもしれない。

「あ……」

リモコンを手にしテレビの電源を切ってしまう。すると美咲が不満そうにこちらを見た。やっとオレを見たことに満足する。

「おやつ」

言いながら紅茶に砂糖を3つ入れてかき混ぜる。差し出すとオレと紅茶を交互に見てカップを両手で持って飲んだ。
なぜ美咲が幼くなってしまったのかはわからない。でも確かに美咲はいる。

「はい、クッキー」

一つ手に取り口元に持っていく。躊躇いながらも口を開きかじった。唇が指先に微かに触れた。

「美味しい?」

頷く美咲。美咲のかじりかけのクッキーを口の中へ放り、唇の感触が残る指先を舐めた。

「ねぇ……美咲……」

膝をすりながら美咲に近づくと後ろに手をつき後ずさろうとした。もう片方の腕を掴み顔を近づける。

「オレのお嫁さんになるって言ってくれたら自由に出られるよ?」

この部屋で何度となく言ってきた言葉。美咲は首を横に振る。逃げられないからされるがままなのにいくらしようとも首を縦には振らない。

「やっぱり警察に……」
「行くの?もし一人ぼっちだってわかったらこれからどうするの……?もしかしたら辛い事から逃げてきたのかもしれない。だから記憶がなくなったのかもしれない。……戻るの?」

美咲の瞳が不安に揺れる。唇が触れそうな距離で囁く。

「お嫁さんになればこれからもオレとずっと一緒だよ。オレは怖い?」

距離を少し離し美咲の唇を指先でなぞる。小さな唇。何度となくオレに貪られた唇。甘い、甘い唇。
ゆっくり美咲の身体を倒す。美咲は抵抗せずにオレを見上げた。

「最初は痛かったけどもう気持ちいいことしかしてないし……オレは嫌い?」

輪郭をなぞり首筋に指先を這わせる。

「……嫌い、じゃないです」
「好きなら良かったけどいいや。オレのお嫁さんになってくれるなら」

首は振られない。
もう少しなのがわかる。戻す気なんてない。
変わらない日常を変えてしまった存在。手に入らないのにそんなの苦しい。だからわからないふりをしていた。
でもチャンスを与えられたのなら捕まえる。このまま、ずっと。戻しはしない。

「美咲は……このままオレのお嫁さんになって」

小さな唇に口付けると目蓋は閉じられた。



H26.12.11

戻さない時
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