novel top

放課後美咲と陽刀兄を迎えに行く。教室を覗くといつものように美咲の帰り仕度を待つ陽刀兄が見えた。声は掛けずに教室に足を踏み入れ陽刀兄の横に並んだ。

「迎えに来た」
「遅くてすみません」
「大丈夫ですよ。急いでいませんから」
「そうそう。ゆっくりでいいよ。あ、二人ともお腹減ってない?」

さも今思いついたかのように返答を聞く前に箱を取り出す。陽刀兄は見透かしたように訝しげにオレを見ていた。

「私は特に……」
「陽刀兄お腹減ってなくても食べられるでしょ?」

嫌な予感がしたのかいらない意思を示そうとするのを遮る。別に陽刀兄にとっても嫌なことではないのに。

「今すぐでなくてもいいでしょう」
「今日はこれを食べる日なんだよ。ね、美咲」
「ポッキーの日、ですね」

美咲はオレが箱を出した時からわかっていたのか振るとすぐに答えてくれた。
美咲が答えたからか陽刀兄が黙り箱を凝視する。食べなければいけない日というわけではないのにそんな日があることに驚いて気づかないのだろう。

「てことで美咲はい」
「え?二本ですか?」
「食べたら駄目だよ。くわえたまま」
「食べろと言ったり食べるなと言ったり何なんですか」

オレがポッキーを差し出すと美咲は口を開いてくわえた。

「そしてオレと陽刀兄がくわえたらお互いに食べ始める」
「え?」
「っ!?」

驚く二人の腕を掴んで逃げないようにする。

「夜刀、ここは教室ですしまだ皆さん残ってます」
「陽刀兄早くたべないと美咲が苦しそうだよ」

戸惑う美咲。陽刀兄を急かしてオレが先にくわえると陽刀兄もくわえた。
美咲は食べられないらしく恥ずかしいのか目を瞑っていた。オレと陽刀兄が食べ進めていく。

「……夜刀、これはどこまで食べ進めたらいいのですか」
「最後まで」

そう言って軽く口の端に唇が触れて離れる。さすがに美咲は驚いたのか目を開けた。
陽刀兄はどこまで食べたかはわからないけれどオレより少し離れるのが早かった。せっかく触れるチャンスなのだからそんなに早く離れたら勿体ないのに。
美咲は瞬きを繰り返して息を止めて再び目を瞑ってしまっていた。

「美咲、もういいよ」

目を開けて残されたポッキーを口に飲み込むと大きく息を吸い込んだ。その様子も可愛らしい。

「早く出ましょう」
「そうだね。美咲、はい。今度は一人で食べて」

ポッキーを差し出すと美咲は何の警戒もなく口を開く。可愛くもあり、そんなに無防備だと警戒されるようなことをしてみたくもなった。


「全く貴方は何がしたかったんですか」

並んで帰りながら陽刀兄が言う。オレは美咲には残りのポッキーを差し出しながら歩いていく。餌付けの気分だ。

「ポッキーゲームってやってみたくて」
「何ですかそれは」
「キスしたくてやるゲーム」
「夜刀!」

その後帰ってからもその日は陽刀兄に小言を言われ続けた。あのあと食べ辛くなったのか美咲は顔を赤くさせていた。それでも差し出せばおずおずと口を開いてくれる。

美咲が転校してきて嬉しいけど狙う男子生徒もいた。言って回るのもいいけど噂になったほうが手っ取り早い。ポッキーゲームもしたかったしキスもしたい。キスはできなかったけれど間接キスだよねと陽刀兄に言ったら固まってしまった。
きっとあの場にいた人にはわかっただろう。美咲はオレ達のだって。


H26.11.11


オレ達の
prevUnext