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「姫、俺をどこに連れて行ってくれるんだい?」
「理人先輩……!」
廊下を先に歩く彼女が恥ずかしそうに振り返る。
「姫でも何でもないんですから恥ずかしいですよ」
「俺にとっては今までもこれからも俺だけのお姫様だよ」
少し赤みを帯びていた頬は更に赤くなる。視線を逸らしてまたこちらをちらりと見てくるものだから笑む。
「先に行っちゃいますから!」
早足になるものの少しだけ距離が離れただけでそれが照れ隠しなのだとわかる。
長い夢を見ていた。
夢ではあれど、現実での彼女と結びつけてくれた。
よく見知った学園を再び訪れるのは少し違和感があり、知らない顔もたくさんあり、何より生徒会長ではない事が最大の違いだった。
「図書館でお昼を食べるの?」
「そうですけど少し違いますね」
連れてこられた場所は図書館だった。彼女と現実で再会した場所。でも今はその場所に入る権利である鍵は持っていない。
「魔法の鍵です」
小声で鍵を取り出す彼女。手を引かれて夢でのぼり慣れた階段をのぼり、取り出した鍵でよく出入りしていた扉を開錠する。
「俺のために魔法の鍵を手に入れてくれたの?」
「文芸部員なんで資料を探したいって持ち出しちゃました」
「ああ、姫。こういう時は俺のために苦労して手に入れたと言うものだよ」
俺の言葉に彼女は笑いながら中へと足を踏み入れる。
夢とここまで違いがないと一瞬まだ自分が夢を見てるのではないかと思ってしまう。
どちらの世界でも一人になりたい時にはここを訪れた。
「先輩ここがお気に入りでしたからここでご飯を食べたら喜んでもらえるかなって」
ソファーにバスケットを置いて中身を取り出していく。
それは夢の終わりに食べたいろとりどりのサンドだった。
「ちゃんとデザートも用意しました」
そう言って林檎を取り出す彼女に苦笑してしまう。
「これは咎められてるのかな」
「あっ!無神経でしたよね……」
「いいよ。俺が君を騙して林檎を食べさせたのは確かだから」
彼女の隣に座ると彼女はバスケットを膝に乗せて俯いてしまった。
「怒ってます。でも!」
強い眼差しを向けられて先の言葉を待つ。
ゆっくりと伸びてくる手がもどかしくも待ち遠しくて手をじっと見つめた。
「大切な場所だから。理人先輩の寝顔をはじめて見れましたし」
「そんなことで償えないけどね」
「いいえ!むしろあの時の事も今となってはいい思い出です」
胸に触れられた指の感触は微かなもので、もっと触れたいと思った。でも俺の手は動かない。
「忘れたいものでもなく、ずっと覚えていたいです」
「まいったな」
胸に触れる手を掴んで軽く引き寄せると身体が胸に飛び込んできた。
「理人先輩?」
「お姫様は俺の想像以上だ。何度恋すればいいのだろう」
見上げる彼女の顎に手をかける。
「っ!?」
軽く撫でるとくすぐたっさそうに身をよじる。でももう片方で抱き寄せてしまっているので逃げ場はない。
「ただ、君が欲しかった」
「先輩……」
軽く唇を寄せる。
顔を離すと彼女は微笑んでくれた。
「もっと、先輩の事を教えて下さい」
答えは口づけで返す。
待ち続けるだけで先には不安ばかりだった。
何度この場所で一人、想いを募らせただろう。
これからは二人で、つくっていくものがたくさんある。
眠る俺を見つけてくれたこの場所で。
H21.5.22
眠る俺を見つけてくれたこの場所で
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