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「また待たせちゃうなんて……」
待ち合わせ場所である城の門まで走る。
待ち合わせは次の時間帯のはずだった。先に待っていようと決めたはずなのに城の門前でペーターを見かけたと使用人仲間に聞いて身支度もそこそこに着替えだけ済ませ城内を走る。
サーカスが終わってからもまだこの季節のある国にいた。
なかなか味わえないからと休みが合えばペーターと出掛けている。
「はっ……何かデートみたいよね」
走って息が切れながらも言葉と共に笑みが漏れる。みたいではなくデートなのだ。
だから更に急ぐ。ペーターを待たせたくはないのと早く会いたい気持ちが急く。
私を待っていてくれるペーターの笑顔を早く見たい。
「え?」
角を曲がって出口もすぐだったはずが変わらず廊下が伸び続け先が見えなかった。
「急ぎすぎて間違えたのかしら」
城に滞在したばかりの時は迷いそうだったが今は迷うことはない。
安心してしまっていたから迷ってしまったのだろうか。そうは思ってもなぜか不安になり立ち止まってしまう。
「誰かに聞いて……」
辺りを見回してみても誰もいない。
これだけ広い城ならいない場所ぐらいあるはずと言い聞かせて落ち着かせる。
「ペーターが待ってるのよ……だから」
恐る恐る足を踏み出す。ただの廊下のはずが一歩を踏み出すのが怖い。
「っ……」
慣れるほど聞いたことはないのに足音が響く。あの監獄を歩いた時の音。
サーカスは終わった。その国の催しが終わったらどうなるのだろう。また始まるのだろうか。また変わるのだろうか。離れてしまうのだろうか。
「……離れる?」
自分の思考に疑問を覚える。
なぜそんな思考に陥ったのか。私はなぜこんなに不安を感じてしまっているのか。
「アリス!」
「ペーター……?」
私を呼ぶ声に我に返ると前方からペーターが駆け寄ってくるのが見える。
見えなかった廊下の先などなくはっきりと先には曲がり角が見える。出口はもうすぐだった。
「大丈夫ですか!?メイド達が呼び掛けても返事をしないと言っていたのでどこか具合が……」
「大丈夫、大丈夫よ、ペーター」
心配そうに私に触れようとするペーターの腕に触れた。
ペーターを安心させるように言うも実際は自分に対してだったのかもしれない。
一歩近づき寄り掛かるように額をペーターの胸につける。
踏み出してもあの音は響かなかった。
「外をペーターと一緒に歩きたいの」
心配しながらも私の言葉に渋々応じたペーターの手を握り、美術館に向けて歩いていた。
「……サーカスはもう終わったのよね」
しばらく無言でいたのを私から口を開く。
サーカスという言葉にペーターの手に力がこもった気がした。
「はい」
「この国の催しはサーカスなのよね?それなら……」
それ以降が口にできない。
ペーターが立ち止まり後ろに手を引かれ振り返る。
一瞬矢印がある森が視界に映るも瞬きをすると矢印のない森のままだった。
「ペーター?」
佇み私を見つめるペーター。でも何も言ってくれず呼び掛ける。
「僕は貴女がいてくれればいい。貴女が幸せでいてくれたらいいんです」
不安になる。ペーターといるのに不安になる。
まるでペーターの言う私の幸せの中には自分がいないかのような言い方に感じたからかもしれない。
「ペーターがいなきゃ駄目なのよ」
「はい」
頷いても赤い目のウサギは寂しそうに耳を垂れさせ笑う。
だからその耳を空いている片方の手で掴んだ。
「い、痛いですよ、アリス!」
「掴んでるんだから当たり前でしょ。……離さないんだから」
痛いと訴えるも振り払いはせずにペーターは私の頬にそっと触れた。
「泣きそうな顔をしないで下さい。僕は貴女には笑っていてほしい」
「貴方がそういう顔をしてるのよ」
私の言葉にペーターは目を見張り、笑う。穏やかに慈しむように。
「囚わせたりしません。そのためなら……でも僕は貴女が望めば見つけます」
間が気になるも追及はしなかった。きっとペーターは教えてくれない。私のために教えてはくれないとわかっているから。
「もし私の望みが聞こえない場所にいたら、待ってて。必ず辿り着くから」
この世界の住人であるかぎりペーターにできないことがあるとわかっている。同時にペーター自身が私の望みがわからないこともわかっている。それは他人であれば当然のこと。
「はい、待っています」
不安はある。私は迷っている。でもペーターには辿りつける。私を待っている言葉を信じられる。
掴んでいた耳も握っていた手も離してペーターの胸に飛び込み抱き締めていた。
離れても辿りつける胸の中へ。
H25.1.11
離れても辿りつける胸の中へ
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