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『貴方に仕えられて、幸せでした』
重みと微かな温もりが遠くなっていく。
「エドワルド様!」
「っ!?び、っくりしたよ……シエラ」
自分の名を呼ぶ大きな声に驚き目覚めるとシエラが僕を見下ろしていた。
執務室の床に寝転がり、そのまま眠ってしまったようだ。
「最初は静かに起こしましたが熟睡されていましたので」
怒っているのがわかり投げ出されたクッションを胸に抱える。
「踏まれる覚悟はご立派ですよ、坊っちゃん」
にこやかな顔をして僕のメイドは片足を主の体に下ろそうと上げた。
その仕草を凝視しているといつもと様子が違うと感じたのか足を床に下ろした。
「お疲れならベッドで休まれた方がいいですよ」
膝を折り屈み込む。
抱えたクッションを脇に置いて両手を広げた。
「何ですか?」
「この状況でわからない君ではないだろう?」
「……重いですよ」
「普段踏まれてるのに今更だよ」
からかうように言うと複雑な表情を見せながら身体にかぶさってきた。
胸に頬を押し付け顔を見せないようにしてるようだった。
「突然どうなさったんですか」
「愛する女性には乗ってほしいものだよ」
「エドワルド様」
顔を上げて強く呼ばれる。ごまかしているとわかったのだろう。
こちらが反応をする前にすぐに顔を逸らされた。
「いえ、言いたくない事ならいいんです。申し訳ありません」
主人への失態を謝罪と今の体勢はちぐはぐだった。彼女は僕に仕える事を第一としている。それが最上だと。だから恋人と言える仲であろうとも主従なのは変わらない。
僕達はそれでいいし僕もそれを受け入れた。
「夢を見たんだ」
僕にとって彼女との仲がどうあれ愛している。名称なんてどうだっていい。
だから話したくなった。
「今の体勢で死ぬ夢を」
「っ……」
シエラは驚いて目を見開く。
「……夢の私はエドワルド様をお守りできなかったんですね」
伏し目がちに呟く。
指先でシエラの髪をすき絡ませる。
「最後まで守ってくれたよ。最後まで君を感じられた」
「それは守れたとは言えません」
「見知らぬ誰かの剣は君の肉を突き抜け僕を突き刺した。そして君の重みと温もりを感じて死んだ」
「悪趣味ですね」
「僕の趣味なんて君はわかっているだろう?」
なぜ乗るよう言ったのかわかり複雑そうに目を細める。
想像したのだろう。その瞬間を。
「夢は夢です」
「そうだね。それに……」
言いかけて口を閉じる。続きを待つシエラに微笑みかけ、指から髪をほどき頬を撫でた。
「こうして話せた方がいい」
本当は違う事をいいかけた。でも言うことはしない。夢の僕達の関係は今とは少し違った事を。こんな穏やかな語らいなどしない関係だった事を。
「だからこれからも僕に仕えてくれ、シエラ」
「勿論です、エドワルド様。私の全てで貴方に仕えお守りします」
曇っていたシエラの表情に笑みが浮かぶ。
頭を少し浮かせ顔を近づけると唇が降りてくる。
目を閉じると確かな温かさと重みに包まれた。
H25.4.11
主従:2
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