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注文した荷物を梨奈さんがいつものように紙に記載された注文者と照らし合わせ選別していた。
「終わりましたか?」
手が止まったのがわかり声をかけると箱の中にはまだ残っていた。
「このお菓子はキイくんのですか?」
残っていたのは数種類の菓子。注文書に指定せずに菓子とだけ書いたから見繕って届いたのだろう。
「キイのですが多すぎますね」
「そうですよね」
「キイなら食べられそうですが食べ過ぎになります。せっかくですから梨奈さんがいくつか持って行って下さい」
「いいんですか?」
「もちろん。あ、でも」
人差し指を梨奈さんの口元に寄せ囁く。
「二人だけの秘密で」
「は、はい」
顔を俯かせた彼女から人差し指を離し選ぶよう促す。
あまり好き嫌いはないようだが菓子の好みは知らず知る機会でもあった。
「ではこれで」
「ポッキー、ですか?」
「はい。勉強中によく食べていて好きなんです」
箱に書かれていた文字を読み上げた。細長いチョコがコーティングされた菓子。パッと見では手が汚れそうな気もする。
「指は汚れないんですか?」
「はい、端が……」
説明しようとしてしばしの間のあとパッケージを開け出した。
「持つ所はチョコがついてないんです」
「なるほど、考えられているんですね」
実際に菓子を取り出して納得した。
「食べないんですか?」
「あ、はい」
菓子の行き場に困った様子の彼女をもう少し見ていたい気持ちになりながらも食べるよう促した。端からかじるのを見つめる。
「フレッドさんはあまりお菓子は食べられないんですか?」
「そうですね。作る方が多いですね」
見つめられ首を傾げると再び俯かれてしまった。
「フレッドさん、ポッキー来てなかった?」
「ポッキー?」
キイに聞かれ先日の梨奈さんとのやりとりを思い出す。
「ちゃんと注文書に書いたんですか?」
「書いたよ!ミューちゃんとポッキーゲームするために頼んだんだから」
「ポッキーゲーム……」
内容は不明でもキイの言い様からよからぬものだと察する。
「ゲームって言っても食べるだけだよ!?」
「食べるだけ、ですか。にしては随分動揺しているようですが?」
「そ、それはフレッドさんが」
「私が?」
「……何でもない」
これ以上追及すれば自分の身が危ないのを察知したのかキイはおとなしく引き下がった。
「梨奈さん、少しよろしいですか?」
「はい」
彼女のテントを訪ねるといつものように勉強に励んでいた。立ち上がろうとするのを止め、中へと入る。
「ポッキーまだ食べていないんですね」
まだ箱の中に開けられていない袋を確認する。
「どうやらキイが注文していたようでした」
「え!?見落としてしまってすみません!一袋食べちゃいましたけど残ったのだけでもキイくんに渡してきます!」
立ち上がりかけた梨奈さんの肩に手を乗せ留めると不思議そうに見上げてきた。
「また注文しておきますから大丈夫ですよ。キイに聞かれても知らないふりをしてくださいね?」
彼女は顔に出やすい性格だ。それを承知で申し出ている。迷いながらも頷いたのを確認し本題を切り出す。
「実は私も食べてみたかったんですよ」
「そうなんですか!?」
「そんなに驚かれますか?」
くすくすと笑うと恥ずかしかったのか顔を俯かせた。
「ポッキーゲームはご存知ですか?」
「い、一応は。端から食べ合うんですよね?」
ポッキーゲームの内容からキイの狙いがわかりあとで仕置きをしておこうと考えながら箱から一袋取り出した。
「せっかくですから」
「え?」
袋を開け、一本取り梨奈さんの口元に差し出す。差し出したポッキーと私を交互に見て意を決したようにくわえた。
「では」
もう片方の端を加えかじり始めると梨奈さんは目をきつく閉じていた。進むのは私だけで梨奈さんは止まったまま。追い求めるのは自分だけ。
「このままでは触れてしまいますよ」
「っ!?」
ポッキーから口を離し呟くと彼女は目を見開き近さに更に驚いたのか椅子から落ちてしまった。
「おやおや、驚かせてしまいましたね。すみません。大丈夫ですか?」
残されたポッキーを全て食し梨奈さんに手を差し出す。
「いえ、近くて……」
「ドキドキしましたか?」
手を掴み引き上げながら問いかける。顔を赤らめながら俯いたかと思えばすぐに顔を上げた。
「……次は勝ちます」
「それは楽しみですね」
「フレッドさん」
手を離そうとすると指先を掴まれる。あえて掴み返しはしない。
「何ですか?」
「ポッキー、美味しかったですか?」
「ええ、梨奈さんが好きというのもわかります」
「よかった。あまりお菓子を食べないって話されていたのですすめていいか迷って」
先日のやりとりが過りあの時私に渡してくれようとしたのだとわかる。自分が好きだからといって相手も好むかはわからない。それでも共有したいと思ったのだろう。
「また一緒に食べましょう」
「はい!」
「でもポッキーゲームは私とだけにしてください」
「……はい」
恥ずかしがりながらも笑みは浮かべたままの彼女の指を握り返した。
いつか彼女から追い求めてくれる日がくることを都合よく考えた。
H28.1.20
追い求めてくれる日がくることを
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