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「意外だな。七海からオレのところに来るなんて」
ベンチで昼寝をしていると七海が傍らに佇んでいた。
「今日当番だから配膳くらいは手伝えって」
「それで探しに来てくれたんだ」
「……離して」
手首を掴む。振り払っても無駄とわかっているのかはたまた言って駄目ならクナイを出すのか。
「起きれないんだ。起こしてほしいな」
明らかに嘘だとわかり七海は思案するように無言で凝視してきた。
起こす事にしたのかもう片方の手で手首を掴んできて引っ張ろうとする。
「起きる気がない」
「そんなことないよ」
引っ張っても起こせないように体に力を入れた。
七海は女の子の中でも力が強い方だろう。だから気を抜けば簡単に引っ張られてしまう。
「ねえ、あのやりとり見たんでしょ?」
「昨日の?」
「そう。七海が脱いでくれるって聞いたから呟いたのに冗談だって言われちゃった」
「貴方が脱げばいい」
「オレが脱いだら七海も脱いでくれる?」
返答はなくもう一度強く引っ張られる。でも反対に今度はこちらが七海の手を引っ張った。
「離してっ」
胸に飛び込んできた七海の両腕を強く掴む。痕が残るくらいに強く。でないと逃げられてしまう。
「やりとり見たならわかるよね?脱いでくれないなら脱がせればいい、って」
小さな声でも聞こえるくらい距離が近くなり囁く。
抵抗する力を無視して両手首を片手で掴む。細い手は折れてしまいそうだけど七海は折れない。
「やめ、てっ!」
「え……」
力を込めるように大きな声がしたかと思ったら身体が傾いていた。
ベンチ毎七海に倒されて横向きになり被さる七海を拘束していた手は外れてしまっていた。
「そんなきっかけでやろうとしないで。私は貴方の玩具じゃない」
「あ!いたわよ!一月走りなさい!」
「わかってるよお嬢さん。ロンさんストップ、ストップ!」
賑やかな声が聞こえると七海は立ち上がった。
その姿を追うように起き上がる。
「七海、大丈夫?何もされてない?」
「大丈夫」
問われ答える七海を見つめる。
七海は勘違いしてるよ。オレは七海の話題がなければあんなの呟くつもりなかったんだ。オレの行動で君が何かしてくれるなんて言われたら飛び付いてしまう。
そう言ってもやっぱり怒るかな。
「ロンさん酷い有り様に見えるけど楽しそうだね?」
「うん、酷い有り様でもないしね」
七海がこちらに視線を遣り、合う。戸惑うようなその表情にわからせたくもあるし、わからないまま翻弄させたくもある。
前を向き歩き出す七海の姿を見つめたまま足を踏み出した。
H25.8.31
翻弄
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