novel top

「本当毎年毎年この時期になるとわかりやすいよね」
「わかりやすいって何が?」

楽屋で妹からの返信を見直していると戻ってきたみなとに言われた。

「誕生日前にそわそわする。あいつから何貰えるかな〜って」

もうすぐでオレの誕生日。昔はわかりやすかったが今はあいつもうまく隠せるようになり返信を見直しても欲しいものを探るようなものはない。隠せることが少し寂しくも思えたが成長を見守るのも兄だ。

「貰えるものも楽しみだけど俺の事考えてる時間が長くなるだろ?」
「……」
「みなと?」

近づいてきていたはずのみなとが一歩下がりなぜか引くような顔をしている気がした。

「お前はそれが通常か」

呆れながら言われてもオレはいつも通りで自分の誕生日を指折り数えた。


当日夜に妹の寮の部屋に向かうと出迎えられた。待っててと言われ正座をし待っている。今では来ることが多くなった部屋。まさか正体がバレるとは思わなかった。でもバレたことで一緒にいられる時間が増えてよかったのかなとも思う。
妹が袋を胸に抱えて戻ってくるとオレを見て一度制止した。正座をして待っていたからだろう。呆れを混ぜた笑いも可愛らしくずっと見つめる。

「誕生日おめでとう、お兄ちゃん」
「ありがとう」

同じように正座してくれた妹に差し出された袋を丁重に受けとる。祝いの言葉に胸がいっぱいになった。

「開けてもいいか?」

聞くと妹は頷いてくれて口を縛られた紐をほどき中を覗く。手を入れそっと取り出した。畳まれたそれを掲げ広げると綺麗な橙一色のTシャツだった。

「お兄ちゃん!?」

Tシャツを膝に置き脱ぎ出すと妹が驚いた声をあげる。着ていたTシャツを脱ぐと妹と目が合いふきだして笑った。

「慌てすぎ」
「早く着たかったんだ」

脱いだTシャツを妹が手にし畳んでくれるのを見ていてふと思い付いた。

「どうしたの?」

プレゼントのTシャツを差し出すと首を傾げる。その仕種も可愛い。

「着せてほしい」
「何言ってるの?」

その応対もお兄ちゃんには御褒美だ。しかし諦めずに突き出す。

「誕生日だし!お前の手で着せてほしいな〜!誕生日だし!」
「……わかったよ」

根負けと誕生日という言葉で仕方なくといったようにTシャツを受け取ってくれる。

「はい」
「ん」

頭を入れるよう促され頭を入れ裾を伸ばされ腕を出す。袖も確認するように伸ばされ膝立ちになったかと思うと両手が髪に触れた。目の前に胸が来て不意打ちに息を止めてしまう。

「うん、似合う」

体勢を戻した妹が笑顔で言うと息を吐いた。髪を整えたくれたようだった。自分が着ているTシャツを見て両手を広げる。

「大事に飾るな!」
「着て」

言うと思ったけどと付け加えられ嬉しくてその日は誕生日プレゼントのTシャツを着たまま寝た。


「それで着る事にしたんだ?」

レッスン中のスタジオで陸に話していた。大事な大事な今年の誕生日の思い出を噛み締めるように話していると陸が屈んで話に出たTシャツを凝視してくる。

「やらないからな!」

守るように抱き締めるとなぜか苦笑される。姿勢を戻した陸が今度はオレを凝視する。言うか言うまいか考えているような。しかし言うことにしたようだ。

「そのTシャツ手染めだよね」
「は?はあ!?そ、え!?」

確かに綺麗な色だと思った。言われてTシャツを摘まみ見てみると染めたのがわかる。

「帰る!」
「お疲れ〜」

鞄にタオルと飲み物を突っ込みそのままスタジオから飛び出した。


そうして連絡もせず妹の部屋へ向かったが妹はいてくれて中に入れてもらった。

「お兄ちゃん、説明してくれる?」

中に入るなり土下座をしだしたオレにそう聞いてくれる妹。ゆっくり顔を上げると心配そうな表情を見せていて姿勢を正す。

「お前がくれたプレゼントが手染めと気づかなかったなんてお兄ちゃん失格だ」

一点もの。オレだけのオレのためによるプレゼント。それを気づけないなんて不甲斐なさすぎる。

「探してるオレンジ色がなくて、なら自分でって思っただけだから気にしないで」
「お前は本当に優しいな……天使か!天使だ!」

不甲斐なさと優しさに泣きたくなり抱きつきそうになるのを堪えた。レッスン後のまま来てしまったから汗をかいている身体で抱きつくわけにはいかない。

「とにかく、その件は気にしてないけど汗かいたまま来たのは駄目だと思う」
「そうだよな。汗くさいお兄ちゃんなんて嫌だよな……ん?」

少し怒ったような表情もやっぱり可愛い。でも怒らせたいわけではなく申し訳なく思うと妹の手がTシャツの裾を掴んでいた。

「風邪ひくからだよっ」
「わっ」

思い切り引き上げられ脱がせられる。なかなかの思いきりのよさに驚きながらタオルを投げられた。

「前に置いていったお兄ちゃんのTシャツがあるからとりあえずそれを着て」

タオルで身体を拭いているとすぐに妹は戻ってきて見覚えのある畳まれたTシャツを広げた。実はわざと置いていったとは言えずにTシャツを受け取ろうとすると妹は目の前に再び座る。

「はい」
「ん?は、はい」

誕生日当日と同じように着せられる。同じように髪を直され今度は息を止めたあとに視線を目の前の胸かは逸らしていた。

「お兄ちゃんは暖かいからオレンジ色かなって思って。お兄ちゃんがいるからいつも心強いよ」

あんなに綺麗な色のイメージなのか。優しい表情で語る妹は綺麗だった。

「それはお前がいるからだよ。お前が暖かいからオレもそう在れる」

お前はオレがいるから、オレはお前がいるからと言う。どちらが先なんてわからないけれどやっぱりオレはお前がいるからなんだと言う。

「ありがとう、お兄ちゃん」

着替えても抱き締めるのは堪えておく。着た時に気になったのを確かめるために自分の胸ぐらのシャツを掴み匂いを嗅いでみる。

「何してるの?」
「お前の匂いがする」
「っ!?」

洗ってしまわれていたためかオレのTシャツは妹の香りがした。つい口にしてしまい驚いた妹に軽く叩かれる。悪かったと笑いながら謝ると妹も笑っていた。オレの色だからと染めてくれた色はオレとお前の色なのだろう。一緒にいるからこその色。できるならずっとそう在りたいと願う。


H30.1.15


一緒にいるからこその色
prevUnext