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「目隠し……ですか?」
「そうだ」
「外にいる間ずっとなんですよね?」
「何か問題があるのか」

蛟は犯人ではない、だから牢から出してほしいと泉姫候補は言った。
ならばこちらの条件を提示するまで。泉姫候補は躊躇いがちに俯く。

「私が常にそばにいる。歩行は問題ない」

私の言葉に反応するように顔を上げる。数度瞬きをしたのちに口を開いた。

「蛟さんを牢から出してもらえるんですか?」
「私の条件をのんだらだ」
「わかりました」

先程の躊躇いがなかったかのように真っ直ぐと私を見て承諾した。
根底にあるのは蛟だとわかっている。だからなのか衝動的に身体が動きそうになるが止めた。


授業は受ける必要はないと思ったが百歳と話をし、最初は私の行動に対し反対を述べていたが譲らない事がわかったのか授業は受けさせろと言われ従った。
蛟には泉姫候補には近づかないよう言い渡してある。
だから大丈夫などとなぜ考えたのか。

「お前には言っていなかったな。泉姫候補と蛟の接触は禁じている」

陽の落ちた廊下で唐紅を探し呼び止めた。

「何のためにやってんだよ」
「泉姫候補に本来の務めをさせるためだ」
「ハッ!くれなゐ様にはてめぇがあいつを独占したがってるようにしか見えないぜ?」

距離を詰め私の目前に佇む。

「バレバレなんだよ」
「何がだ」
「てめぇだってみことを犯したいんだろ?蛟のヤローは間違ったことはやってねぇ。てめぇが来なけりゃ物にできたのにな」

唐紅は覗きこむように顔を近づけ声を潜める。

「いや、そもそもあんたどこから見てたんだよ?大方ずっと見てたんだろ?なら尚更だよなぁ?」
「唐紅、皆がお前のようだとは思うな。私は泉姫候補の本来の務めの妨げにならなければそれでいい」

会話を打ち切り部屋に戻るために唐紅に背を向ける。
廊下の先には姫空木が佇んでいた。唐紅の位置からわからないはずはない。あえて指摘しなかったのだろう。

「蛟の監視はどうした」
「蛟なら部屋では手錠をつけてますよ。鍵は僕が持っています」
「早く戻れ」

姫空木の横を通りすぎる。

「いろは先輩の部屋にいる必要はあるんでしょうか?」
「何が言いたい」

立ち止まるが振り返りはしない。唐紅も立ち去らずにまだ先程の場所に佇んでいるだろう。

「みことちゃんは蛟のパートナーです」
「蛟は泉姫候補のパートナーには相応しくない。資格を剥奪されては意味がない」
「……てめぇらの会話は上辺だけで気色わりぃ」

靴音が響き唐紅がこの場から去ったのだとわかる。私はそれ以上何も言うことはなく立ち去った。


部屋に戻るといつもは声をかけてくる泉姫候補の声がなく一瞬部屋から出て行ったのではないかと思った。
すぐにベッドの上に姿を見つけ安堵する。泉姫候補は私のそばにいる。
どうやら泉姫候補は眠っているようだった。明かりを消してベッドへと近寄る。
授業用の本がベッドに投げ出されているのを見て、勉強をしていたのがわかる。
月明かりだけでも泉姫候補の姿ははっきりと見える。
数日共にいて笑うことはなかった。むしろ華伐以外は本を手にしている事が多く疲弊しているように見える。

「……笑わない」

顔にかかる髪を払う。いつかしたこの部屋で泉姫候補とのやりとりを思い出し机の引き出しから袋を取り出した。
色鮮やかな小さな星が入った袋。ベッドに腰掛け袋から金平糖を取り、彼女の口元に寄せる。
唇の隙間から滑り込ませると微かに身動ぎ口が動いた。

「ん……」
「起きたのか」
「あまい、です……」

たどたどしく口にしながらぼんやりとした表情を浮かべ私を見上げる。
夢か現か判別がついていないように見える。
彼女の肩を抱き起こす。されるがまま私の腕の中に収まる。
金平糖をもうひとつ摘まみ口元に差し出すと薄く口を開いた。食べさせると微かに笑みを浮かべる。
彼女の唇に触れた指を自身の唇に寄せ、舐めた。甘いものが口に広がる。金平糖の甘さとはまた違う。だがすぐにその甘さもなくなる。
無意識に誘われたように彼女の唇に唇を寄せた。最初は触れるだけ。それだけで甘さに酔いそうになる。

「っ……」

図書館での蛟が彼女に行った事が過る。同時に先程の唐紅と姫空木の言葉も過る。
彼女は蛟のパートナーとなるはずだった。だが今こうして腕の中に閉じ込めているのはなぜか。

「……私だけ、私だけ映せばいい。この甘さも私にだけ与えてくれればいい」
「っ!?いろはさ……」

そう口にした瞬間彼女の目が見開き身体が強ばる。声を荒げる前に唇を塞いでしまった。荒い息が熱さを感じさせ更に甘さに酔う。
彼女の身体に手を這わせ下半身に辿りつくと腕が私を叩く。
構わずに行為を続ける。

「ふっ、んん!んっ……」

気づけば彼女の身体をベッドに横たえていた。唇で塞げなくなり手で彼女の口を覆った。
纏っていた衣服は使い物にならないだろう。覆いかぶさると滲んだ瞳が私に訴えかけるように見つめてくる。涙を流した跡がはっきりとわかった。笑わない。どうしてだろう。私は彼女を笑顔にさせられない。
くぐもった叫びが聞こえる。全て逃さないように彼女と一つになる瞬間に再び唇を塞いだ。



H25.6.11

全て逃さないように
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