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深夜。人影がないのを確認しつつ屋根づたいに駆けていく。
最も月明かりがあるとはいえこんな暗がりで人の目でははっきりとオレの姿は捉えられないだろう。

「さすがに寝てるよな」

目的の家を前にして呟く。姿を確認できればいい。
ちょっとした事故でティアナは猫になってしまった。2、3日で戻るという話だったが戻った姿を確認していない。
戻らなければあいつらが黙ってるはずがないが自分の目で確認したかった。


目的地であるティアナの家の屋根に飛び移る。縁に掴まり窓からティアナの部屋を覗く。

「気が引けるけど姿確認したら帰るから……ごめん」

うっすらと明かりがついてるのはわかっていた。

「シルビオ?」
「わっ、ティアナ……!?」

だけどまさ中にいるティアナと目が合うとは思えず驚いて落ちた。
かろうじて着地には失敗しなかった。

「大丈夫!?」

すぐに窓が開く音がして見上げるとティアナが心配そうな表情で見ていた。
小声で大丈夫と告げると安心したようだった。

「何?」

ティアナが手招いてるような動作をした。まさか来いって事か?そんなわけないと見つめ続けてもティアナは手招いていた。
木を伝ってティアナの部屋の窓まで上がっていく。
すると声にはせずにティアナが入ってと口で示した。

「びっくりした」

靴を脱いでティアナの部屋に上がって窓を閉めるとティアナが笑った。

「ごめん、戻ったか心配でさ。様子だけ見て帰るつもりだったのに……」
「大丈夫。戻ったよ」

自分の姿を見せるように手を広げる。確かにいつも通りのティアナで安心した。

「じゃあ戻ったのも確認できたし帰るな」
「待って」

背を向けようとすると袖を掴んで引き留められた。

「眠れなくて……シルビオがよかったら」
「一緒にいる」

ティアナが聞いてくる前に返すとティアナは嬉しそうに笑った。


オレは椅子に、ティアナはベッドに座り向かい合わせになる。

「みんなが休んでろって言うからひなたにいたら昼寝をたくさんしちゃって……」
「わかるわかる。それが誰かの膝の上で撫でられたりしたらすぐ寝るよな」
「誰か?」

例えばで言ったのだがティアナは引っ掛かったようで眉間に皺が少し寄る。

「訂正。ティアナの膝の上がいい」

ティアナ以上なんてティアナ以外なんてあるはずがない。
だから伝わるように真っ直ぐ見つめるとティアナは照れたのか顔を俯かせた。

「シルビオ?」

そっと頭に触れると上目遣いで見られる。ティアナがオレが猫の時にいつもしてくれていたように優しく撫でる。

「……シルビオから見て猫の時の私ってどうだった?」
「めちゃめちゃ可愛くて美人でずっと抱いていたかった」

きっと可愛いんだろうなと思っていたが想像以上で危なかった。人の姿でも猫の姿でもオレを虜にするなんて……ティアナだからか。

「シルビオにそう言われると照れるね」

照れを隠すようにでもやっぱり嬉しそうに微笑む。
その微笑みに引き寄せられるように頭を撫でていた手が下がり頬に触れる。
時間が止まったかのように見つめあう。
でもオレが手を離すとその不思議な感覚もなくなった。

「ベッドに入れよ。眠るまでオレが撫でてやるよ」
「シルビオは?」
「何だよ、猫になって甘え癖がついたのか?」

からかうように言ったのにティアナは否定せずに視線を逸らした。

「じゃあ眠るまでな」
「ありがとう、シルビオ」

二人でベッドに入る。一人用のベッドだから狭いのは当たり前。でもオレにはその狭さが心地いい。

「ティアナ、狭くないか?」
「大丈夫」

向かい合ってるせいで顔が近い。
猫の時とは違う抱き心地。でも愛しさは変わらない。

「おやすみ、シルビオ」
「おやすみ、ティアナ」

抱きしめるように背中に回される腕も心地いい。抱きしめて、抱きしめてもらえる。
ティアナが眠るまで待って帰るつもりだったのにここで朝を迎えてしまいそうだった。
目覚めの挨拶も聞きたくて、目を閉じた。



H24.1.18

目覚めの挨拶も聞きたくて
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