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何でか目で追ってしまう。


「桜川、それ担任から頼まれたの?一緒に運ぼうか?」
「だ、大丈夫。そんなに重くないし」

あからさまに目を逸らしながら答えられても、ね。

終業式兼卒業式の時に俺は何でかこの桜川ヒトミに俺の裏を見せた。
別にただの気紛れ。
何でも信じて可愛がられて何も知りませんという感じが嫌だったからかも。
案の定、あのあとマンションで会っても挨拶はしても顔を逸らし、さっきみたいに話しかけてもあれだし。
何か、やっぱりこんなもんかって思った。
何でこんな苛つくのかもどうして今でも話しかけるのか。


「華原くん……?」

放課後の教室で机の上に座り、グラウンドを眺めていた。
すると教室のドアが開かれ名を呼ばれる。

「桜川……。何、こんな時間まで部活?」
「ううん。若月先生に頼まれてコピーとか手伝ってて」

やっぱり視線はあわせずにいそいそと机にかけてある鞄を取る。

「あのセンセーと仲いいんだね」
「マンションに住んでるから。体調悪くなった時もよく見てもらってるし」

それでも会話を続けるのはあからさまに避けてると思われたくないんだろうか。

「へぇ、じゃあさ」
「な、何?」

机から下りただけでこの反応。近付いてもいないのに後ずされたら近付きたくなる。

「俺とも仲良くしようよ?」

明るく言って笑ってあげてるのに、怯えた目で後ずさり…壁に背中をぶつけてから自分の逃げ場がないと気がつく。

「ここ、学校だよ」
「学校だからクラスメイトと仲良くするんじゃん。ね、桜川」

両手を壁に突いて彼女を閉じ込めた。
顔を近付けると避けるように背ける。

「何か期待してる?そうだよね、こんな時間じゃ人こないしね」
「っ!?……やっ」

スカートの裾を摘んだだけ。この反応が面白い。

「怖いなら叫びなよ。若月先生が助けにくるかもよ」
「そんなこと……」
「え?」
「華原くんが……悪くなっちゃう」

聞き違いかと耳を疑った。
いい事をしているわけじゃない、自分は襲われかけてるのだから助かりたければ俺を悪者にすればいい。
彼女はそれが嫌だという。

「興味なんて……」
「華……ん、んん」

呟いて唇を塞いだ。
興味なんて持たない。
いつか信じたくなってしまうから。
もしかしたらと期待してしまうから。
だから悪者になったっていい。
俺は君を傷つける悪者で、君は傷つけばいい。

「やぁ……華原く……」

自ら傷を開く、俺を求めてしまえばいい。
だから優しく傷つけてあげる。

今はまだただ君を閉じ込めておきたいだけ。



H18.2.18

今はまだただ君を閉じ込めておきたいだけ
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