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結局何もできなかった。
何もしなかったわけじゃない。キスは幾度となくした。あいつが誰にも見せた事がない場所を犯した。
でも貫く事はしなかった。
どうしてと涙を流しながら問うあいつに、俺は仲良くしたいからと笑ってやった。
こんな事をすれば仲良くなんてできるはずがない。むしろ逆だ。
「シュタイン……?」
公園に散歩にきたはいいがあまり気乗りがせずベンチに座り込んでしまっていた。
ついさっきまで俺の足にシュタインが顔を擦り付けてたはずなのに、いない。
「いなくなったのに気付かないなんて」
最低だなと口にする前に公園の入口から聞き覚えのある声がした。
まさかそんな偶然あるはずないと走って行ってみると、やっぱりそこにはあいつがいた。
「シュ、シュタインっ!くすぐったいよ〜」
シュタインが飛び付いたのか地面に押し倒されたその人は笑っていた。
あの時とかぶる。
ほんの数日前、俺に押し倒されて……その時は声を押し殺して泣いていたけど。
「ごめん、桜川。またシュタインが飛び付いちゃって」
「あっ!ううん、大丈夫……だから」
俺がいる事にやっと気がつき、視線を上にあげてすぐに俺から逸らした。
「ほら行くぞ、シュタイン」
呼び掛けても従う動きはなし。変わらずに尻尾を振って桜川にじゃれついている。
さっきかまってやらなかった事を絶対怒ってる。機嫌を損ねると大変なんだよなと思いため息を吐いた。
「あの、華原くん」
「何?」
「シュタイン離れないみたいだし、迷惑じゃなければ一緒に散歩してもいいかな?」
何言ってるんだ?
この前自分が何されたかわかってないのか?
そもそも俺がいるかもしれないのに何で公園に来てるんだ。
言葉に詰まる。胸が痛い。
自分が何を考えてるのかがわからない。
「華原くん?」
「桜川が散歩してやって。俺先に帰ってるから」
「え?華原くんっ!」
これ以上平然とあいつの側にいる事ができなかった。
あんなに泣かせてしまったのに。
それでもまた触れたいと思ってしまう。
今度こそ全て奪ってしまいたくなる。
「っ……俺は何やってんだよ」
家に帰るなり、玄関に背中を預けながらへたりこむ。
走ってきたせいか息が荒れている。整えようとしてもうまくいかない。
「ちがっ……」
違う。何が違うんだ。
今更気付いたって遅いんだ。
鳴る時を誤ってしまった鐘は
もう意味がないのだから
H18.10.18
鳴る時を誤った鐘に意味はない
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